第1章 02 「で、埋められちゃったんだあるちゃん。災難だったねぇ……」

「――ってことが昨日あってさ……」

 翌日、学校の昼休み。あるては中学校からの友人の平木たいらぎ灯夜ひよと一緒に教室で弁当を食べながら、昨日の道瑠との出来事から顕子とのやり取りまでを灯夜に話した。

「で、埋められちゃったんだあるちゃん。災難だったねぇ……」

「そこ?」

 灯夜の冗談に対し、あるては慣れたかのように自然にツッコむ。

「ってかお母さんのアレは口だけだから」

「勿論知ってるよー。それで、その謎の男の子の話を私にして一体どうしたの? あ、恋愛相談? 私も恋愛経験なんてないけどねー」

「そ、そんなんじゃないって! ただこう言うことがあったって――ふ、普通の会話だよ」

「ほんとかなー。中学の時からの仲だけど大体漫画とか食べ物とか学校の話とかで、リアルの男の子の話ってこれが初めてな気がするけど」

「むぅ……」

 反論出来ないあるて。

「それにあるちゃん、不器用だから」

「その言葉は私に刺さ……くっ」

 更に追い討ちを掛けるかのような灯夜の言葉が、あるての胴体を貫通させた。

「わーごめんあるちゃん! 大丈夫? 傷は浅いよ、ガックリして!」

「どう見ても致命傷なんだよなあ……」


 ――5分後。

「……そろそろ落ち着いた?」

「まあ……」

「良かった。んーと、じゃあさ。その人のこと、興味ある? 無い?」

 灯夜はあるてが落ち着いた頃合いを見て尋ねる。

「……わかんないんだよ」

 そのままあるてが続ける。

「好きなのか嫌いなのか、どう思うか、また会いたいか、気になるのかだって……興味があるかどうかすらわかんないんだよ」

「そっかー。うーん……じゃあさ、あるちゃん。『好き』の反対って何かな?」

「えっ? そんなの、『嫌い』じゃないの?」

 あるてが道瑠への思いを吐露した結果返って来たのは、予想外の質問だった。

「じゃあ『嫌い』の反対は?」

「『好き』……って、それがどうかしたの?」

「どっちも違うよう、あるちゃん。どっちの反対も正解は『興味無い』なんだよ。『好き』と『嫌い』と『興味無い』は昼ドラでよくあるような三角関係だと思えば良いよ」

「興味無い……?」

「そうそう。好きも嫌いも感情の一種だし、意識しないと考えられないと思うんだ。そこら辺では似てるよねー。でも興味無いってことは、意識することも無ければ何の感情も湧かない。違うかな?」

「……うん、まあ」

「ほら。もう答え出てるじゃん! あるちゃんがその人のこと興味無いなんて、話を聞いてた第三者わたしですら到底思えないもん」

「そう……?」

「うんうん。だからね? その人に対してどんな感情を抱いてるのか見定めるためにも、もう一度会ってみるのが良いと思うな」

「……そっか」

 あるてが呟く。灯夜の言葉に少し助けられたような気がした。

「……ぴよ」

「んー?」

 ぴよ――渾名で呼ばれた灯夜が反応する。

「私、もう一度会ってみる」

「いいねいいね。友達として応援するよー! だからそのカニさんウインナー貰うねー」

「あっ! この泥棒ぴよが!」

 灯夜があるての弁当箱からカニさんウインナーを、箸でひょいぱくと奪った。

「ごめんねー? このバランあげるからおあいこってことで」

「いらん! 恨むよ? ぴよ。食べ物の恨みは恐ろしいんだ」

「恨みの感情があるだけ本望だよー。はっはっはー」

 後で道瑠に『会いたい』と言ってみよう――と、今のあるてに迷いは無かった。

(ほんっとに不器用だなーあるちゃんは。でもそっかー、ちょっと気になるな。あのあるちゃんをここまで悩ませる道瑠さんって人が、どんな人なのか)

 一方で、灯夜はこう思ったのだった。

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