2 伝説の魔剣

 そんなこんなで俺たちは、(主に俺が)大変な思いをしながら50階層へと到達した。今までに何度か挑戦し、毎度途中で挫折したのだが、今回は罠に掛かる事もなく、いいアイテムも道中で手に入る等、運よく事が進んでようやくここまでたどり着いた。今までと違う事といえば、相棒がドスという女であるという事。もしかしたら、こいつは幸運の女神なのかもしれない。


「ウノさん、これみよがしに宝箱がありますよ!?」


 ドスが指さした方向を見やると、確かに棺桶くらいの宝箱が大部屋の中央、白い大理石造りの祭壇の様な段差の上に置かれていた。


「きっと魔剣はあの中です!」


 ドスは足早に宝箱へと駆けてゆく。ばかもの、罠が仕掛けられていたらどうするんだ!と、言いそうになったが、ドスにはここまで全ての罠を作動させてはすり抜けてきた異常なまでの幸運がある。先に行かせよう。


「ウノさん、宝箱はあなたが開けてください!」


 祭壇に向かうまでに作動した落とし穴も毒矢の罠もするりと回避し、ドスは宝箱に辿り着いていた。俺は作動済みの罠を避けて宝箱の元へ。


「よし、開けるぞ……」


 はやる気持ちを抑えながら、俺は宝箱の蓋を開けた。


「何だこりゃ!?」


「うわぁ。 汚いですね」


 仰々しい宝箱の中に入っていたのは、ボロボロに錆びた大剣だった。ドスが思わず「うわぁ」と言ってしまうくらい、その見た目は汚らしい。


「これが…伝説の魔剣……?」


 ドラゴンが魔剣士を喰ってから、胃液でも浴び続けたのか?そうでもないと、このみすぼらしさは説明が付かん。こんなきったねえ鉄屑の為に俺や沢山の冒険者が危険に身を晒してきたと思うと、悔しくて仕方がなかった。


「ふざけんな!」


 俺はその錆びた大剣を両手で持ち、上段に振りかぶると、宝箱に叩きつけて壊す勢いで思い切り振り下ろした。


「きゃっ!」


 ドスが驚きの声を上げる。


「ゲェーッ!?」


 俺も驚いた。叩き壊すつもりの錆びた剣は無事で、それどころか鉄で出来た宝箱と、その下の祭壇までも真っ二つになっていたのだ。錆びてなおこの切れ味……こいつは正真正明の魔剣だったのか!!汚く錆びた剣は、幾百年の時を経て醜く変貌してしまったが、その力は健在だったんだ。


「やりましたね、ウノさん!」


 ドスも小躍りして、まるで自分の事のように喜んでいる。なんていい奴なんだろうな、こいつは。


「でもよ、こんな小ぎたねえ剣に買い手が付くか?マニアの金持ちも博物館も、剣を武器としてでなく骨董品や美術品として集めてる連中ばっかだぞ?」


 古い刀剣の価値は実用性よりも見た目の美しさなのだ。いくら伝説の魔剣とはいえ、こんなきたねえ剣を飾りたくなる奴ぁいねえ。俺だって自宅の壁にこんなもんが掛かってたら嫌だ。


「鍛冶屋さんに持って行ってはどうでしょう?」


  と、ドスの助言。なるほど、錆びを落として鍛え直せば見た目は観賞に適した姿になるだろう。


「よし、そうと決まれば早速町へ戻ろう!ドス、脱出の術だ!」


「はーい。神明の松明よ、彷徨いし我が身を導き給へ……【イジェクタ】!!」


 ドスの唱えた脱出の術で、俺たちは一気にダンジョンの入口へと戻る。苦労して潜った迷宮も、出る時が一瞬というのは味気ない気もするが俺は早いとこ鍛冶屋にこのきたねえ魔剣を持ち込みたかったんだ。

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