魔剣ヌル・アハト

たかはた睦

第一部 盗賊ウノ

1 迷宮ドラガナル

 俺の名はウノ。只人サピエント冒険者ヴァガボンダーさ。冒険者ってのは決まった住処も持たず、各地で依頼をこなして得た報酬や、賞金首を狩って得た懸賞金、迷宮ダンジョンに潜って得た財宝やらでその日を暮らす旅人の事だ。俺たちの生きるこの世界ユニバース『アラパイム』の地は貧富の差が激しく、平民に生まれても人生のレールに上手く乗れなきゃあ、こんな生活が待っている。


 そして今、俺がいるのはヘスパニョラ王国の外れにある迷宮『魔竜の肛門ドラガナル 』だ。なかなかふざけた名前だろう。だが、この迷宮に巣食うモンスターや罠の数々はふざけた名前に似つかず厄介だ。


「オラァッ!」


 右手に把持した短剣による斬撃がモンスターの横っ面に直撃する。槍を持った紫色の梨型モンスター『ヘル・ドラド』は傷口から果汁をぶちまけて絶命した。真っ二つになったヘルドラドの上半分を拾い上げると、そのまま噛り付く。モンスターの肉は迷宮での貴重な食料となるが、とりわけコイツのように生食出来る種族は調理の手間も省けて都合がよい。


「ドス、お前も食っておけ」


 と、俺は相棒に向けてヘル・ドラドの下半分を放り投げた。


「は、はいっ」


 梨のモンスターをキャッチした相棒は、小さな口でその断面に噛り付く。彼女の名はドロシー・ルース、略してドス。 街に暮らす妖精族『シティエルフ』だ。術師協会から修行の一環として冒険者の元に派遣された術師の彼女は、年若く見えるが21歳の俺より倍近く生きてるとか。種族の特徴というヤツだな。本来は一匹狼の俺も、迷宮攻略には仲間が必要だったので、彼女を雇う事にしたのさ。


「モンスターも強くなってきましたねぇ。この梨さん、初めの方の階層に出てきた緑色のに比べて強さが段違いです」


 と、ドスは梨の身をシャリシャリと咀嚼しながら言う。彼女の言った緑色の梨というのはラフランサーといい、ヘルドラドと同じく槍を携えた梨の魔物なのだが、かなり弱い。そしてドスは皮だけになったヘルドラドを、近くにあった空っぽの宝箱に入れた。モンスターの残骸をポイ捨てするよりはお行儀が良く見えるが、後から来た冒険者がこの宝箱を開けたら相当ガッカリするだろう。


「まだ地下25階層だ。やっと半分だぞ」


 俺の言葉を聞いたドスは、まだ先があるのかと露骨に嫌そうな顔をしてみせた。報酬は前もって半額分の3万ペロリを渡しているし、道中で得た宝は折半という好条件なんだから文句は言わせねえぞ。


 主に俺がモンスターを倒し、ドスは俺を術で回復しながら、俺たちは迷宮の奥へと進んでゆく。この『魔竜の肛門ドラガナル』は、大昔にこの地方で名を馳せていたアハトという魔剣士を丸呑みしたドラゴンが呪いで石化し、頭から地面に突っ込んだ状態でそのまま迷宮化したという伝説がある。入口が竜の尻の穴に当たるため、名を魔竜の肛門というのだが、名前はもう少し何とかならなかったのか。 最下層には飲み込まれた魔剣士アハトの所持していた魔剣が眠っているとされ、それを狙って何人もの冒険者がこの迷宮に挑んでいるが、未だにその姿を拝んだ者はいない。


「ウノさんも、その魔剣を狙ってるんですか?」


「おうよ!伝説の魔剣なんて、いい値が付きそうだろう?刀剣マニアの貴族と各国の博物館を集めて競売に掛けりゃあ、どんどん値段が吊りあがるぜ!」


「まぁ、欲望に正直な人」


 ドスには、俺が前人未到の50階層にたどり着き、魔剣を手にした事の証人になってもら

おうじゃないか。


「高値で売れたら、私にも何か御馳走の一つでもしてくださいね?」


 まあそのくらいはいいだろう。モンスターの肉よりはいいものを食わせてやるさ。

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