3 商都マドランド

─ヘスパニョラ王国商都マドランド


 人呼んで情熱の国、ヘスパニョラ。その中でも取り分けて活気づいてるのがこの商都マドランドだ。ドラガナルを始めとする数々の遺跡と、それに挑む冒険者達が拠点とする事で、この町は発展していった。冒険者達が利用する店は宿屋、酒場、各商店、そして今の俺たちが入ろうとしている所…鍛冶屋だ。


「邪魔するぜ、トレス!」


「お邪魔しまーす」


 俺が入り口の扉を開けると、ドスがそれに続く。


「うるせえぞコノヤロウ!……って何だ、ウノじゃねえか!3日前にダガーをこさえてやったのに、もうダメにしやがったのか!?」


 店のカウンターの奥で、熱された鋼をハンマーで叩いていたのは髭面のドワーフ。この鍛冶屋「ラ・マヒストラル」の主・トレスだ。


「へへっ。アンタの鍛えてくれたダガーのお陰で、俺たちはドラガナルを攻略出来たのさ」


  と、俺はカウンターの上に布で包んだ魔剣をゴトリと置いた。


「なに!?ってぇ事はおめえ、手に入れたのか!?『伝説の魔剣』を!!」


 トレスは立ち上がり、作業をほっぽり出してカウンターに走ってきた。ドスが布の結び目を解き、魔剣の姿が露わになると、それを見たトレスは口を開く。


「何じゃこりゃ!?きったねえ!!」


 と、開いた口から出た言葉がそれだ。無理も無いか。俺たちが魔剣に抱いた第一印象と全く同じだった。


「でも、切れ味は本物ですよ。腕力の無いウノさんでも、それを使えば石をおトウフの様に斬れたんです!」


 ドスが俺をして腕力が無いと言ったのは悪口ではなく、俺の生業クラスである奪士バンディットは、他の戦士職である剣士フェンサー闘士ウォーリアに比べて…という意味だ。大剣に分類されるであろうこの魔剣は、本来俺みたいな素早さと技術で戦う奴には向かないのだ。


「ウノ一人で来たら信じなかったところだが、お嬢ちゃんが言うなら嘘でもあるめえ……」


 と、失礼なことを言いながらトレスは魔剣を手に取り、刃体を隅々まで確認する。


「おっ、ココに何か彫ってあるぞ?」


 トレスが指差したのは刃体の下部で鍔の少し上。そこに見たこともない字で確かに刻印してある。


「これは古代文字ですね。『ヌル・アハト』って書いてあるみたいです」


  長命種族であるエルフは長いことその古代文字を用いてきた。だからシティエルフであるドスにも簡単な古代文字なら読めるようだ。


「アハト!?かの魔剣士の名前だ!じゃあやっぱり伝説は本物だったんだな!!」


  俺はガキの様に喜んだ。そりゃあガキの頃に聞いた童話みてえな話が実話だったんだから、男の浪漫をくすぐる話じゃねえか。


「ウノ!この剣はワシに鍛え直させに来たんだろ!?安くしとくぜ!」


 トレスも興奮気味に言う。鍛冶師として伝説の剣を鍛えたいという願望、そしてそれを焚きつけるのもまた男の浪漫だろう。


「金持ちどもの喉から手が飛び出るくらいかっこよく仕上げてくれよ!」


 俺とトレスの契約はグータッチで成立した。代金は2万ペロリと少々財布に痛手だが、その何十何百倍もの大金でこの錆びた剣が売れると思えば安いもんだ。


「じゃあ、そろそろ晩ごはんにしましょうよ」


 と、ドスはすきっ腹を鳴かせる。 女にとっちゃ男の浪漫なんぞより食い気の方が圧倒的

に強かったようだ。

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