最終話 恋の成就と別れ

「ハヤト、待て!」

「もう! 俺のことはほっといてくれ!」


 ハヤトに追いついた俺は、自分の羽を一本抜き息を吹きかけた。すると、その羽は瞬く間に一本の光り輝く矢に変化した。


「えっ!? えっ!? 何してんの!?」

「お前みたいな頑固者にはこうしてやる!」


 弓矢を構える俺の姿を見てハヤトは慌てふためいている。しかし俺は構わずその矢をハヤトめがけて放った。矢は真っ直ぐ胸に突き刺さると、ハヤトの全身が光り輝いた。


「ハヤト、行けっ! ユウナばかりに頑張らせるな!」

 

 天使の弓矢には、迷いを吹き飛ばし勇気を与える力がある。ハヤトは力強く頷くと、ユウナのもとへ走り出した。




 ――10年後


「サンく〜ん! やっぱここにいたかぁ!」

「おいおい、悪魔がこんな所に現れていいのかよ?」

「まっ、いいじゃ〜ん! 細かいことは気にしな〜い」


 俺たちが今いるのはチャペルの屋根の上だ。ムーンと並んで座っていると、ゴーン、ゴーンと荘厳な鐘の音が鳴った。

 俺たちはチャペルの入口をさっと見る。すると、一組の新郎新婦が祝福の言葉を浴びながらチャペルから出てきた。この幸せそうな二人はもちろんハヤトとユウナだ。

 幼馴染から恋人になった二人はその後順調に愛を育み続け、ついに今日夫婦になった。


「もう10年も経ったんだね〜! 結局私の出番なかったなぁ〜」

「当たり前だろ? 俺がずっと二人を見守ってきたんだから!」


 あの日からブラック天使の姿は一度も見ていない。しかし、この世界から浮気や不倫、略奪愛がなくならないということは、アイツはどこかに潜んでいて、いつでも誰かの恋を狙っているのだ。


 俺はハヤトの幸せそうな顔をもう一度よく見て心を決めた。


「俺の仕事もここまでだな。ハヤト、お別れだ。ユウナと二人で幸せになれよ!」


 ハヤトに別れを告げ、チャペルを立ち去ろうとしたその時、突然空を見上げたハヤトと目があった。

 恋が叶うと、その人から成就屋の記憶は徐々に消えていく。だからハヤトも随分前に俺のことを忘れてしまったはずなのに……。

 ハヤトはしばらくこちらを見つめていたが、ユウナに促され、また笑顔で祝福の輪の中に戻っていったのだった。



            完

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恋の成就屋と恋の破滅屋 元 蜜 @motomitsu

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