第4話 天使vsブラック天使

 ユウナを探して街の上空を飛んでいると、公園にその姿を見つけた。ユウナは一人でベンチに座り、ぼんやりと夕焼け空を眺めている。


「……その娘に近づくでない」


 俺がユウナの様子を観察していると、背後からとても冷酷な声がした。後ろを振り向くと、漆黒の羽を優雅に羽ばたかせながら、一人の妖艶な天使が舞い降りた。 


「お、お前は誰だ!?」

「私の名はクラウディ。恋の成就屋だ」

「なにが成就屋だ! 人の恋路を邪魔しやがって! こんなのルール違反だろ!?」

「ルール? ……ふんっ、私はただ人間の望みを叶えてやってるだけだ」


「クラウディさん? 他に誰かいるの?」


 ユウナは不思議そうにクラウディを見た。

 成就屋の決まりでは、一度恋が叶ってしまうと他の成就屋は関われないことになっている。だから今のユウナには俺の姿は見えないし、声も届かないのだ。

 為す術もなく困っていると、学校帰りのハヤトが公園の前を通りかかった。


「ユウナ、こんな所でどうした? 帰らないのか?」

「ハヤト……。うん……。彼氏が『会いたい』って言うから待ってるの」

「そ、そっか……。じゃあ俺、先に帰っとくわ……」


 そう言うと、俺が呼び止めるのも無視して、ハヤトはユウナに背を向け走り出した。

 走り去る幼馴染の後ろ姿を見てユウナは傷ついた表情をしている。やはり二人は両想いだ。そのことを伝えるためハヤトを追いかけようとしたちょうどその時、この場の空気に合わない呑気な声が聞こえてきた。

 

「あれ〜? サンくん、こんな所で何してんの〜?」

「ムーン! なんでお前までこんな所に!?」

「え〜? 別れの匂いがしたからに決まってんじゃ〜ん! ……って、あの黒いのってまさかブラック天使!?」

「あぁ。アイツに先を越されてしまった……。あそこに座っている子がハヤトの相手だったんだ……」

「ふ〜ん。でも私が来たからにはもう大丈夫だよ〜」


 そっか! ムーンが来たということはそういうことか!


「ムーン、ありがとう!」


 成就屋がこんなにも破滅屋に感謝したのは初めてのことだろう。ユウナのことはムーンに任せ、俺はハヤトを連れ戻すべく羽を広げた。


◇ ◇ ◇


「ねぇ、キミ!」

「キャッ! アナタ誰!?」

「私は恋の破滅屋、ムーン。キミから別れの匂いがしたから、その願いを叶えに来たの」

「わ、別れの匂い?」

「そっ。キミ、本当は幼馴染くんのことが大好きなのに、何で他の男子の告白をオッケーしちゃったの?」


「おい、破滅屋! 余計なことをするな! その娘は自らの意志で今の男を選んだのだ!」


 ブラック天使は苛立った様子でムーンの前に立ち塞がったが、ユウナはそれに構わずムーンの問いかけに対して心の内を吐き出し始めた。


「わ、私、ハヤトに振り向いてほしくて……。だから他の男子と付き合えば、ハヤトが焦って追いかけてくれるかもって思ったの……」

「でも、そんな理由で付き合ったこと後悔してるよね?」


 次の瞬間、悲鳴とともにブラック天使はその場から消え去った。

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