第16話 仲の良い人たちで グループを作ってください

 悩みに悩んだ結果、ラナの懇願で一度王都へ帰還することにした。


 理由としては、必ず自分が上に報告して始末をつけると約束してくれたからだ。


 基本おバカ娘ではあるが、必死な表情で頼み込まれると断るのは非常に厳しい。

 美少女補正により説得パワーが二乗化ツインドライブされているのか、とにかく俺のようなコミュ障はうんと言わざるを得ない雰囲気に圧倒された。


 でも、ラナが約束してくれるならって思いはあった。


 どんな陰キャでも美少女の必死の涙に抗える奴は、ほとんど存在しないだろう。



 言い忘れていたが、俺は別に陽キャを死ねと思っているわけではない。

 基本的な考え、いや受け止め方かな。


 陰キャとは住み分けスタイルの一つだと俺は考えている。


 そのため住む場所、つまり活動範囲があまり交差しない陽キャとは住み分けることでお互い必要以上に関わらないという関係性を維持しているのだ。


 むろんいじめっ子などは複合的な追加要素であり、奴等の狂った論理で犠牲になった同士たちの恨みは機会があればぜひ果たしたいと思うほどの憎しみを抱いている。


 だから、10日後に王都へ戻った際に告げられた情報には正直驚かされた。



 大会議室にラナと共に通された俺だが、中には騎士数名と何度か見かけた兵や尋問官がおり、中央の広間には10人ほどの男女が集められていた。


 騎士団長のロドムや勇者神殿の司祭たちが数名、たるんだ腹をローブに納めたワルガイという司祭が部下から書類を受け取っている。



 真っ先に俺の意識を釘付けにしたのは広間中央に集まっていた連中だった。どう見ても日本人にしか見えない。


 高校生の男女4人とヤンキーグループ、そして距離感からも明らかにバカップルぽい2人。


 俺はラナの背中越しに彼らを観察していると、ロドムが肩を叩きあの集団へ混ざれと言い出した。



 あえりない! なんてことだ!


 心臓が張り裂けんばかりに激しい動悸を打ち始める。


 あの集団へ混ざれだと!?



 固まる俺の背中を鼻歌を唄いながらラナがその場所まで押していく。ええいこの馬鹿力め!


「ほらほらお母さんが付いていってあげるから~♪」まじでやめて!


「お!? あんたが先に来ていたっていう日本人か?」


 軽妙かつ溢れるコミュ力を放ちながら話しかけてきたのは、高校グループの男子だった。

 あらやだイケメン。


 シャイニー事務所に所属していてもおかしくないほどの容姿とスタイル、それに笑顔が眩しい。

 はっきりとした二重の魅力的な目は男でも嫉妬してしまうほど。死ねばいいのに。


「君が先に来てた人だよね、お互い大変だったね」


「え、ええ……はい」


 あら……また、ラナとはまた違った朗らかさと明るさが漂う正統派美少女がそこにいた。明るいライトブラウンを前髪ぱっつんロングにしているがやや軽いウェーブがかかっている。

 すいません、もしかして二次元から抜け出してきちゃいました?


 そう思えるほどの容姿の整った笑顔と物怖じしない性格のJKに見える。


「そうだった俺は鶴来光平つるぎこうへい こっちが綾目夏恋あやめかれん。んで背が高くて日に焼けてるのが 撰 えらぶふみひと、そしてショートボブの子が白鷺瑞萌しらさぎみずもだ」


 さすがコミュ力あると仲間の名前も一発で覚えているんだな。


 彼らの質問や交流に付き合わされるのかと思うと気が重かったが、あのデブ司教ワルガイが部下に命じたことで場が静まった。



「では新たに召喚された使徒、使徒候補の皆にはこれより活動単位となるグループ分けをしてもうらうことになりました。いいですか?」


 おい、やめろ……


 それだけはやめろ!



「仲の良い人たちで グループを作ってください」



 当然陽キャ高校生グループは自然と微笑みあい、バカップルは手を握り、ヤンキーたちは周囲へガンを飛ばしながらオラついている。


 音も衝撃もないのに、空間が断絶し遮断されたのを感じる。


 そう、ドラゴン退治にかりだされている間に召喚された彼らは自然とグループをパーティーを組んでレベル上げをしていたらしいことは分かった。


 となれば当然訪れるのは、俺だけが隔絶された閉鎖空間に隔離されてしまったという事実。


 圧迫感と押し寄せる胸の痛み……過去のトラウマ。


 < 警告! クラス特性 陰キャ のバックラッシュが発生 >



「ぐはっ!!」



 体を何か鋭い刃物で切られたような激痛が走る。


 噴き出す鮮血、崩れ落ちる体。膝の力がすとんと抜けるように倒れながら自分の体から流れる血の多さにただ混乱することしかできない。


 < 警告! コミュ力を超えた事態により精神ダメージが限界に達したため、肉体ダメージへの自動転換が発生しました >


「カゲミツ様ああああああ!」

 ラナが駆け寄り必死に傷を探し、止血をしようと必死だった。騒然とする会場と叫び出す騎士たちの鎧の擦れあう金属音が激しくなっていく。


「あの私やってみます!  ディバインスペル ライトヒール!」

 あの綾目夏恋という少女が、激痛で呻く俺の傷口に優しい光を浴びせてくれた。


 光の粒子が体に優しく染み込んでいくと、すーっと痛みが耐えられるレベルのものへと移行していく。


 ようやく呼吸が落ち着くと、あの夏恋という子が聖女のような笑みを浮かべている。いえ私如きのために浮かべてくださいました。


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