第15話 陰キャvs天輪衆

「おい小僧、内容次第では利用価値ありとして殺さないでやってもいい、たばかれば女共々苦しませてから八つ裂きにしてやる」


「実は……俺が……やって……だから」


「声がちいせええ! てめえ話す気あんのか!」


 奴等がイラつき距離をさらに詰めてきた時、一歩ラナに近づいて俺は決意する。


 < スキル 反骨精神 が発動しました >


 右手に二本、左手の篭手から三本、シャドウニードルが放たれた。


 男たちは剣を抜いて切り裂こうとするが、影のような実態のない物が切れるはずもなく・・・・


「実はこういう方法だったのさ、シャドウマスク!」



 ニードルから分岐したシャドウマスクが5人の目へ見事に命中した。悲鳴や倒れ込んで外そうともがく声が聞こえる中、俺はラナの体を抱きしめながら賭けに出ることにした。


 < スキル 影同化Lv4 が発動。任意対象『ラナ』と共に馬車の影へ同化します >


「ん~んんんん!」


 混乱するラナの口を塞ぎながら必死に落ち着いてと耳元で訴える。


 外ではそろそろシャドウマスクの効果が切れる頃で、不意打ちを喰らい怒鳴り声や周囲に苛立って魔法を撃ち込んだりしている。


「ラナ、俺の魔法で影へ潜伏しているんだ。おとなしくしててね」


「は、はい。でも耳元で、う、うん……んん!」


 色っぽい喘ぎ声と、ラナの体の温もり、そして甘い香りが脳髄を攪拌していく。

「カゲミツ様、そのお腹に何か固いものが!? お、押し付けないで……」


「こ、これはその鎧の中に何かが……」


 やばいやば!


 落ち着け落ち着け! 落ち着くんだマイサン! 


 大丈夫だお前は俺の息子だそんな社交的じゃないはずだ、考えろ素数を頭の中で想起しろ・・・・1、3,5,7・・・・おっぱい・・・おおおおおおい!!


 だめだ押し付けられる胸の感触と谷間がああああ! 童貞には刺激が強すぎる! 

 はぁはぁ! やばいやばい!


 外の様子なんぞ、暗殺者なんぞどうでもいい! 耐えろ俺は紳士だ、変態紳士だ! 


 女の子にいかがわしい行為など、全国数千万の変態紳士の先輩方に申し訳が立たない!

 あっちは立ってるけど……ってうるさいわ!



 < スキル 生存本能が発動しました > やかましい!


 でもラナってめちゃくちゃかわいいんだよな、こんなかわいい子とこんな狭くて落ち着く空間で二人きりになれるなんて機会もうないよな。


 って俺、凄まじくキモイ!  あああ死にたくなてきた!


 < スキル 自己嫌悪 発動しました > もういいから!


 こうしてドキドキ密着大作戦? 中、奴等はしつこく周囲を探し回ったが痕跡すら見つけることができず撤収に入り始めていた。


「ちっまさか転移魔法の使い手だとは聞いてねえぞ。情報伏せやがったな。大したことのないはったりだけの根暗野郎だって話だったじゃねえか!」

 あたってます。


「どうせ近くにいるに決まってんだ、くそう周囲を焼き払うにしてもそろそろ巡回の兵士が来る頃だ!」

 近くにいます。


「おい隊長、どうすんだよ。俺たちが任務失敗なんて初めてだろ!? いっそドラゴンに食われたことにしちまおうぜ」

 そうしよう! それがいい!


「そういうわけにもいかねえが、最初から見つけなかったことにすりゃ辻褄は合うな、よしそれでいくか」

 それがいい。



 奴等が森の中に隠していた馬で駆け抜けてからしばらくの間、俺とラナは影の中で潜伏することにした。


 数ある小説やアニメ、映画などではこういう場合、残って監視している奴がいる場合がある。


 そこで通りがかった荷馬車の影に潜みながら王都とは逆方向へ向かうことにした。


 微かにのぞき窓を作り、そこから外界の様子をうかがってはいたがさすがに監視要員は消え去っていたようだ。

 街の近くで木の影へ移動するのと同時に俺の魔力が枯渇しかかっており、パタリと倒れてしまう。


「カゲミツ様!?」


「だ、大丈夫……少し魔力を消耗しすぎただけ」


 慌てて俺をかつごうとするラナを制止しする。


「動けるようになってからじゃないと目立ちすぎる、もう少し休めば大丈夫だから」


「カゲミツ様、あなたは本当に本当に……心配ばかりかけるのですね。しかも自分が傷つくこととか、どんな悪評が広まろうと、名声を得るチャンスさえどうでもいいのですね」


 魔力が枯渇しているため意識が朦朧とする。正直ラナが言ってることがよくわからん。


「人のために自分の栄誉や名誉を惜しげもなく捨てることができる人間がこの世にいたなんて、私はカゲミツ様を心から尊敬いたします。ずっと……ずっと一緒にいたいです」

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