第二十六話 ニアとシルヴァ 四 再会

「ふぅ。出来た」


 その言葉と同時にどっと疲れが降りてきた。

 部屋に充満じゅうまんする異臭に加えて大きく丸いガラスに入った大量にある緑の液体。

 少し光っているのが何より出来ているあかしである。


「結構かかりました……」

「仕方ないよ。これでも速い方だ」

「そうなのですか? 」

「ああ。通常こんなに大きく高性能な機材きざいは無いからね」

「へぇ」


 ニアが大きな機材きざいと出来た大量の錬金液れんきんえきながめた。

 それを苦笑いしながら付け加える。


「錬金液の材料は安いんだが如何いかんせん機材きざいが高い。それに買い手が少ない。よってその分高値になる。こうして自分で作れる魔技師は良いんだが作れない奴の財布は軽いだろうね」


 そう言い席を立ち巨大な丸いガラスの元へ行く。

 正直作り過ぎた感は、ある。

 まぁ機材自体が大量生産用だ。そこに大量の材料をぶち込んで作ったんだ。仕方ない。

 練習用とだいして作ったは良いものの……どうしたものか。


 ガラスの前まで行くとボクはニアに顔を向けた。


「ニア。錬金液はあとどのくらい残っている? 」

「ええっと……正直あまり残っていないですね。最近仕事量が多かったので」

「ならば売るよりかは使った方が良いか」


 そう言いつつ温度調節器の冷却れいきゃく状態を解いてアイテムバックから幾つか小分こわけするためのびんを取り出す。


「これからも忙しいだろうし手元にあるにしたことは無いからね」

「え……。忙しい? 」

「ん? ああ、前も言ったが人気の魔技師となるとあのくらいの量は日常茶飯事にちじょうさはんじだ。途中までは手伝うがいずれは一人でこなせることができるようにならないと、な」


 倒れない程にしながら、と付け加えてくびれている巨大ガラスの首の部分をつかびん小分こわけしていく。


 ううう……。バトラーじゃないがすごい臭いだ。

 毎回嗅いでいるとはいえ慣れることはできない。

 いや人類はこの臭いに慣れることがたして可能なのだろうか?

 慣れることができた魔技師がいるのならば会ってみたいね。


 そう考えていると作業が終わる。

 びんのキャップをめて臭いが外に出ないようにする。

 前を向くとニアも同じようにびんに移しているようだ。

 ボクが持っているびんと同じものだね。あれは前にカーヴの野郎にくれてやったやつだな。


 キュキュっとニアもを閉め、よいしょと大きなガラスを元の位置に戻す。

 少し余った状態のガラスを見て、そしてボクの方を向いた。


「この残渣ざんさ、どうしましょうか? 」


 その言葉を受けてボクも自分のガラスを見る。

 中には苦草にがくさの溶け切らなかった繊維せんいや大量の岩から出た金属が光沢こうたくを放ちながらそこにあった。


 通常、この二つを混ぜただけではこうはならない。苦草にがくさを混ぜた状態で粉砕ふんさいされた岩を混ぜるとこうなるのだ。

 しかも厄介やっかいなことでこの手順じゃなければ錬金液は作れない。他の作り方を考えなければならいないのだが、興味がかない。この問題を放置状態にしていたが……そろそろ真剣に取り組まないといけないか?


 そしてあごに手をやり考えながら口を開いた。


「ん~どうしたものか。魔境で作る分にはモンスターにぶつけてダメージを負わせる武器にしていたのだが、残念ながらここにはモンスターはいない。かといってこれをそこら辺にくわけにはいかないし」

「ダ、ダメージ?! 」

「この劇物げきぶつは良くも悪くも爆発性があってね。だから普通は錬金液を作るための錬金術師を商会が雇うのが普通なんだ」

「そんな危ない物を大量に?! 」

「と、言うか君も作ったことあるんだよね? どうしてたんだい? 」


 そう言うと軽く窓の方を向いて顔をそのままで答えるニア。


「……庭に……捨ててました」


 それを聞き納得した。

 が、いい方法ではないのは確かだ。


「……まぁ少量作る分にはそれでいいのかもしれないけれど、この量をどうするか」

「業者さんってどうしているんでしょうか? 」

「さて。ボクは業者じゃないからわからないし。案外ボクと同じようにモンスターを倒すための飛び道具を作っているのかもしれないね」


 そう言っていると扉からノックの音がした。

 同時にバトラーがボク達を呼ぶ声が。


「……冷却れいきゃくして外気と反応しないようにし、爆発しないようしておくか」


 そう言いつつ再度温度調節器に魔力を流し、起動させ、ガラスを冷却れいきゃくさせてボク達は扉の向こうへ足を向けた。


 ★


「本日は突然の来訪らいほう、申し訳ありません」


 バトラーの声にみちびかれ綺麗きれいになった応接室へ向かうとそこには仏頂面ぶっちょうづらをする細身な冒険者とムキムキマッチョな冒険者が待っていた。

 山に行った時に見かけたメンバーだな、と思いつつ威嚇いかくするニアを引き連れ机をはさんで正面まで。

 着ている白衣のポケットに手を突っ込みながら尊大そんだいに観察しているとマッチョな——付き人と思われる冒険者がまず謝罪をしてきた。


「君は確か……」

「申し遅れました。Fランク冒険者のエラルド、と申します。以後よろしくお願いします」

「Fランク冒険者、ね」


 そう言う自称冒険者を軽くにらみ観察。

 ぶるっと震えて気はするが気にしない。


 貴族の従者じゅうしゃとして名乗りをあげない所から差しめ、あくまで冒険者として扱って欲しいという意図が見える。

 意図は見えるが、何故そんなめんどくさい事をするのかわからない。


「そしてこちらは同じくFランク冒険者の――」

「シルヴァだ。よろしく頼む」


 こちらは御機嫌ななめらしい。不貞腐ふてくされた表情で荒っぽく自己紹介。

 相手の対応はあまりよろしくないのだが、恐らくその根本的な原因はボクの隣にいるニアだろう。

 「きしゃー!!! 」と威嚇いかくして今にも飛びかかりそうだ。

 大人しく人見知りな彼女のどこに触れたのかわからないが、今の所目の前の貴族子息はニアにとっての天敵てんてきというのは本当らしい。

 

「工房主が先に挨拶あいさつすべきなのだろうけれどこの状態だからボクから挨拶あいさつしようか。ボクはシャルロッテ・エルシャリア。恐らく気付いているのかもしれないけれどSランク冒険者。ま、だからと言って特にかしこまる必要はないのだけれど」


 と、言いつつバトラーに目線を向ける。


「私も同様冒険者のバトラーと申します。シャルの同居人のようなものです」


 そう言い軽くお辞儀をするバトラー。

 彼が挨拶した後ニアに目線を移す。まだ威嚇いかくしていたようだ。

 しかしこのままではいけない。

 軽く小突こづいて正気に戻させる。


「……コホン。私はカーヴ工房の工房主、ニアと言います。今日は如何様いかようでしょうか? 」

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