第21話

部屋のドアがしっかり閉まってるか、何度か入念に確認しつつ、部屋の隅で子機を握りしめる。


ここが、僕の部屋だ。


殺風景な僕の部屋だ。


天井近くまで連なった本棚には、もう一生使わないであろう昔の教科書だったり、小学校の頃にお母さんが買ってきた子供向けの伝記がとりあえず並んでいる。


結局、ベーブ・ルース以外は最後まで読めなかったし、これからも必要ないと思ってる。


あとは、ベッドと勉強机だけ。


小学校に上がる頃に買ってもらった勉強机も古くなって、ばあちゃん家にあった小さいのをもらってきた。


字を書く板の部分を90度折り込んで、壁に向かって畳むことができるタイプの小さな机。


京香には催促されたんだけど、やっぱりこういう話は男らしく、せめて電話でするべきだと思ったんだ。


本当は会って伝えたいんだけどね。

会えないから。


「・・もしもし?」


「もしもし、拓己です」


「だと思ったよ(笑)また変な番号からかかってきたから(笑)これは実家の番号なの?」


「そうだよ。さっきの続きを話そうと思って」


「そうだよ!急にいなくなるから、バイバイも言いそびれちゃったし、何なのさ!怒るよ?」


「もう怒ってません?笑」


「そうだよ!もうプンプンだよ!!!」


「みんなカンカンって言うと思うよ笑」


「どっちでもいいしょ!」


「あ、また怒ってる?笑」


「怒ってるよ、またバカにしたじゃん!」


「プンプンに?笑」


「いや、これはもうカンカンだね!」


「ごめんなさい笑」


「けど、確かにカンカンだよね(笑) で、さっきの話って何?」


「急に戻るね笑」


「気になってたの。怒らないから、言って?」


「これは、僕の勝手な気持ち。何かをお願いするわけじゃないし、僕は今こう思ってます、それでもいいですか?って聞きたいんだ」


「また前フリが長いなぁ(笑)そんなんじゃオチないよ(笑)」


「いや、面白い話をしようとしてるんじゃないから笑 オチはないよ」


「真剣に聞いたほうがよさそうだね(笑)」


「そうね。じゃ、話すよ?会ったこともないし、そもそも知り合ったのも最近だから、バカみたいって思うんだろうけど。僕は、京香のことが、異性として気になってます」


「・・うん、それで?」


「だけど、僕たちは会えないし、辛い思いをさせた時に責任も取れないから、何かを求めるわけじゃなくて。勝手に、好きでいても良いですか?」


「嬉しいよ、ほんとに嬉しい。ありがとう」


「迷惑じゃない?それでも大丈夫?困ってたり、嫌だったら言ってね」


「別に責任も何もないし、もしヒロくんが良いなら、付き合っちゃう?」


「え、本当に言ってる・・?」


「なんでそこで困るの!(笑)冗談だったの?」


「いや、そうじゃなくて。その答えは予想してなかったから、逆に驚いちゃって。だって、僕は会ってあげれないし、携帯すら持ってないから。僕の方がずっと京香のこと待たせちゃうよ?」


「いいんだよ。どっちにしろ、寂しいしね(笑)」


「ごめんね。高校に入ったら、携帯買ってもらうから。あと3ヶ月もしたら、いつだって連絡できるから」


「無理しなくていいよ!大丈夫、ずっと待ってるから」


「ありがとう。宜しくね。」


「こちらこそ(笑)宜しくね!」


「さっきの繰り返しだけど。じいさんばあさんになった時に、一緒にいれたらいいね」


「そうだよね!ほんとにそんな日がいつか来たら、ほんとにほんとに、ほんとにいいのにね・・」


「泣いてる?ごめん。嫌なこと言っちゃった?」





「ううん、何でもない。


 何でだろ。泣きたくなっちゃって。


 変だよね。


 嬉しいんだよ?




 嬉しいのに。

 

 泣きたいくらい、幸せなのに」





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