第15話

チョウザメ。


その卵はキャビアと呼ばれ、珍味として名高いことで知られる、チョウザメ。


体の表面にある大きなウロコが蝶のような形をしていることから、そう呼ばれる。


太古の時代から淡水に潜んでいることより、古代魚にも分類される。


そして一番の特徴は、全体的な形が鮫のそれによく似ているということである。



蝶でもなく、鮫でもなく。


ただの魚なのだ。





「京香は、誰かに似てるとか言われる?」


たった一枚の写真だけではぼんやりした輪郭しか掴めないので、ヒントを得ようと質問する。


「あんまり言われたことないかも。聞いても困らせちゃいそうだし(笑)」


「分かる!それで無理やり答えさせても、相手に気も使わせちゃうしね。」


「確かに(笑)無理やりアイドルとかを選ばせて、的外れなのが来そうだよね」


「まぁ、別に何でもいいんだけどね」


「けど、ヒロくん見てみたいなぁ(笑)」


「ガッカリさせちゃうかもしれないよ?笑」


「けど、レーサーなんでしょ?素朴な顔してるからピッタリだよ!(笑)」


「素朴に不細工かもよ。いや、でもそんなに悪くはないと思ってるよ笑」


「初めて聞いた強気なコメント(笑)」


「いや、よくはないよ?笑 けど、そんなに悪くもないんじゃないかなって・・笑」


「小学校の時とかはどうだったの?ちょっとくらいモテた?(笑)」


「小学校の時は、それなりにモテてたかも知れない笑」


「じゃぁかっこいいんじゃん!」


「けど、小学生って運動できるだけで人気出るじゃん?笑 6年生の運動会の後なんかはまぁまぁだったよ!笑」


実は、そんなにモテたわけじゃなかったんだけど。


何人かは僕のことを気に入ってくれてるという噂は聞いていたので、少し話を大きくしてみる。


そして、さりげなく運動が得意だとアピールをしてみる。


実際、足は速かった。


本当は単に第二成長期に入るのが早かっただけで、決して元々運動が得意なわけではなかったんだけど。


「運動得意なの?かっこいいじゃん!京香は運動大嫌いだよ。どんくさいし(笑)」


「体育の時間だけは輝いてるよ、素朴に笑」


「そうなの?意外!(笑)京香は体育の時間は大嫌いだな」


「1時間遊びみたいなもんじゃん!」


「京香、胸おっきくてさ。男子が見てくるのがやなの。」


あまりに唐突で、画面を見ながら僕はかなりうろたえた。


こんな話を異性としたことがなかったし、食いついてもケモノみたいだし。


「そうなんだ、けど他の女の子とかうらやましがるんじゃない?笑」


褒めつつも、若干議論を横にずらしてみる。


本当はすごくドキドキしていて、もう少し話を続けてみたかったけど、これくらいが1番程度がいいと思った。


「女の子って(笑)急にプレイボーイぶらないでよ(笑)」


「僕たちはみんな女の子って言うけどなぁ。女子って言ったほうがいいのかな?」


「うちの学校はみんな女子って言うよ、男子たちは」


「そうなんだね。男子校生なりの背伸びかもしれない笑 けど、嫉妬するなぁ 京香と同じクラスにいれる男子がいるんだもんね」


「なにそれ(笑)」


「いや、会ってみたいなって思うんだよ。会って話せば、もっと色々知れると思うし」


「そうだね、いつか会えたら嬉しいね」


「本当に思ってる?笑」


「本当だよ!けど、それよりも前にヒロくんの写真見てみたいな」


「今度友達の携帯からメールしても良い?送ったらすぐに連絡先は消させるから」


「送ってね!連絡先は別に消さなくても良いから(笑)」


「いや、消させるよ。僕が嫌だもん。」


「やっぱりちょっと変わってるね(笑)別に気にしなくて良いよ」


「嫉妬するじゃん!携帯持ってたら、いつでも京香に連絡できるんだよ?」


「何かわからないけど、嬉しいよ(笑)ありがと(笑)」


仕方ないな、健太にでも頼んでみよう。


京香に僕を知ってもらえること。


自信があるわけじゃないから、ちょっと不安もあるけど。


想像するだけで、ドキドキした。





僕は、何者でもないただの学生だ。


それでも、蝶のように妖艶に羽ばたくこともできるし、鮫のように力強く生きることもできるって。


今は、そう思うんだ。

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