見たことある人

次の日、朝から一般病棟にうつっていた。私は、千秋が来るのを待っていた。


「おはよう、葵」


「おはよう、千秋」


千秋は、髪の毛がボサボサのまま現れた。


「車椅子借りてきたよ!行こうか?」


「いいって?」


「うん!」


そう言われて、車椅子に乗る。千秋は、ゆっくり車椅子を押してくれる。


「嬉しいな!葵とこうやって過ごせるなんて」


「私も、嬉しい。千秋と生きていける事が…」


振り返らなくても声だけで千秋が嬉しそうなのが伝わってくる。私と千秋の重ねてきた歳月は、本物なんだってわかる。

一階についた、千秋は車椅子を押してくれる。


「せつなね!ママの赤ちゃんが出てきたら一番に抱き締めてあげる」


私は、その声の主を見つめていた。


「ありがとう!まさか、赤ちゃん出来てるなんてね」


「パパもこれからは、頑張らないといけないな!」


「うん!!みんな一緒だよ」


どこかで、出会った気がする…。


「どうした?葵」


「えっ、ううん。何でもない」


「さあ、もうすぐコンビニだよ」


そう言って、病院のコンビニに連れて行ってくれる。


「葵、雑誌とか見る?」


「見たい」


「じゃあ、見よう」


「でも、邪魔かな?」


「大丈夫だよ!少しくらい」


「そうね」


千秋は、雑誌コーナーに連れてきてくれる。私は、久しぶりに雑誌を見ていた。だけど、さっきの親子連れが気になっていた。凄く、幸せそうだった。子供がいて、旦那さんがいて…。


「葵、どれか欲しい?」


「うーん?いらないかな」


「紅茶は?」


「飲みたい」


私は、目覚めてから千秋がいるから幸せだったじゃない。ブンブンと頭を振った。誰かの幸せを羨ましがるのは、やめるって決めたじゃない。


「はい、紅茶」


「ありがとう」


「少しだけ、外の風あたる?」


「うん」


そう言って、千秋は私を連れて行ってくれる。ロビーから、外に出る。


「夏が終わっちゃったから、少し肌寒いだろ?」


千秋は、私に自分が羽織ってる上着をかけてくれる。


「ありがとう、千秋」


「いいんだよ」


千秋がニコッと微笑んでくれるのを見つめながら、私は幸せだと思った。千秋をもう二度と失いたくない。嫌、一度も失ってはいないけれど…。眠ってる間に失っていた気がしたから…


「千秋、二人で生きて行こうね!これからも…」


「当たり前だよ!葵」


「久しぶりの紅茶、美味しいよ」


「家で飲むのが一番だろ?」


「確かに、そうだけど…」


「早く帰って来いよ!葵」


「うん」


「1人で眠るのは、寂しいから」


「わかってるよ、千秋」


千秋は、私の車椅子の横にしゃがんで優しく笑ってくれる。

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