帰宅

千秋は、私から離れた。相変わらず毛玉だらけの服と便所スリッパ。


「送るよ」


「うん」


私と千秋は、家を出た。


「とりあえず、100だけにする!あの人にとられたくないから」


「わかった」


途中銀行に寄って、100万円をおろした。封筒にいれる。千秋に近所の公園まで送ってもらった。


「さよなら、磯部さん」


「嫌だよ!葵」


千秋は、私の手を握りしめてくる。


「ごめんね、千秋」


「戻ってきてよ!」


「無理なの…ごめんね」


「葵、嫌だよ。お願いだよ」


「さよなら」


私は、助手席から降りた。紙袋にお金をしっかりといれて…。


「待って」


千秋の声を聞かずに、早歩きで去った。ボロボロのアパートに1ヶ月半ぶりに帰宅していた。

ジーって音がするインターホンを鳴らした。


「葵、退院したのか?」


大嫌いな旦那が出てきた。


「た、ただいま。子供達は?」


「俺の母さんがみてるよ!後で、迎えに行く」


「そう」


私は、家に入る。


「あのね」


「何?」


「これ、慰謝料貰ったから雪那をもう働かせるのはやめてくれない」


「2ヶ月分だろ?とりあえず、2ヶ月休みな」


「何とかするから」


「無理だって話したろ?二重生活なんだからよ」 


「私の両親?」


「そうだって言ってんだろ」


「何とか説得する」


「スマホ、ちゃんともっとけよ」


エコバッグを渡された。


「何それ、服までくれたのか?」


「みすぼらしかったんじゃないかな?」


「何だそれ!上からだな」


ジャージ上下しか着ていない旦那に言われたくはない。


「でも、綺麗だから助かるよ」


私が、ニコッと笑った瞬間だった。


「葵、させろよ」


「嫌よ!退院したばっかりなのよ」


「関係ない」


千秋としたのに、嫌だった。


「やめて」


力が強くて嫌になる。


「1ヶ月半も我慢したんだぞ」


「やめて、やめて、ウーウー」


全てが終わった。私は、またこいつに無理矢理されたのだ。千秋との優しいのが、消えていく。

涙がボロボロと溢れ落ちていく。


「迎えに行ってくるわ!帰ってきたら、焼き肉でも食いに行こうな!葵」


泣いてる私の髪を撫でてから出て行った。


私は、さっきのワンピースを一枚取り出した。


【葵には、これが似合うよ】小さな小花柄のワンピースを千秋は褒めてくれた。


ブー、ブー、スマホを見ると知らない番号。


「はい」


『葵、まだ近くにいるんだ』


千秋の声がして泣いていた。駄目なのは、わかっているのに私は千秋に甘えてしまう。助けて欲しくなる。


「千秋に会いたいよ」


『どこにいるの?俺は、近くにコインパーキングあったからそこにいるんだけど』


「きて」


言っては、いけない言葉を口にだしていた。


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