第20話 馬鹿と秀才の青い春

「なあ?」

「ん?」

「馬鹿が馬鹿どうし集まったところで試験勉強ってはかどるもんか?」

「ありゃりゃ……気づいちゃった?」


 夕陽が沈むか沈まないか微妙な時間帯。

 学校の近くにあるファミレスにて、俺たちは中間試験に向けた勉強をしている。


 ちなみに2人だ。

 もうひとりいたのだが、飯だけ食うと満足したように帰っていった。

 あいつはぜってー赤点だ。

 でもそんなやつに限って、俺たちのなかでは成績に余裕があるからムカつく。


「気づいたもくそもあるか。このままじゃ勉強してる意味ねーだろ」

「安心して。秘密兵器がもうすぐくるから」

「なんだ、それ?」

「見ればわかるよ」


 と、そんな会話をしていた時だった。


「あ、ほんとにやってる……」


 なにやら聞き覚えのあるようなないような声が降ってきた。

 俺はテーブル席に座ったまま首をひねって、声の主を確認する。


「……誰だっけ?」


 聞き覚えだけでなく見覚えも定かではない。

 しかしはっきりしているのは、それが同じ学校の女の子ということだ。

 制服は同じだし、学年を表すリボンの色も男子のネクタイの色と同じ。

 外見はまあ……どこにでもいる普通の女子って感じ? 強いて言えば髪の毛が長いくらいか。あえて伸ばしているんだろうけど、お手入れが大変そうだ。


 女の子はため息をついた。


「なんで覚えられてないかなあ……」

「むしろなぜ覚えられていると思ったのか聞きたい」

「クラスの学級委員長くらい覚えておきなさいよ」

「え、そうだったのか?」


 なんと、同じクラスだった。


「そうだったのよ。で、そっちの男の子から勉強を教えてくれって連絡があったの」

「僕が頼んだんだ、ファインプレーでしょ」


 うーむ……。

 友人も勉強に関しては馬鹿仲間と思っていたが、交友関係は広いらしい。

 俺なんて女子に知り合い、いねえぞ。


「で、委員長は勉強できるのか?」

「一応、毎回10位以内はキープしてるわよ」


 うちの学校はまあ、頭がよくもなく悪くもない連中の集まる学校だ。

 そこで10位というのが全国ではどれくらいのものなのかわからない。

 でも、下から数えたらすぐ名前が見つかる俺たちよりは、できるに違いない。


「勉強はできるが、教えるのは下手とか冗談はいらないからな?」

「その点は安心して」

「なんで?」

「他の子からもわかりやすいって言われてるから」


 どうやら俺たちの他にも勉強を教えて回っているらしい。

 委員長の仕事って大変だな。


「で、どの教科がわからないの?」

「全部」

「えっ」

「全部わからん」


 彼女は立ち尽くしてしまった。

 気のせいかもしれないが、血の気が引いたようにも見える。


「留年するわよ?」

「しそうだから困ってんだ」

「馬鹿なの?」

「勉強ができないという意味ではその通りだ」

「はあ……」


 ため息。

 そうだよ、そのどうしようもない気持ちから出るもんは俺も同じだよ。


「まあ、私も自分が委員長をやっているクラスから留年者を出したくはないし……」

「俺たちも留年だけはしたくねえな」

「仕方ないわね。みっちり勉強を見てあげるわよ。覚悟しなさい」

「委員長は優しいなあ……途中で放り出さないでくれよ?」


 しないわよ、と彼女は言った。

 まさか中学校の教科書からやり直すことになろうとは、俺も友人も彼女もまったく考えていなかっただろう……。

 でも、馬鹿でなかったら俺たちは知り合いになることはなかった。同じクラスだというのに接点がなく別れ別れになっていたかもしれない。俺はいま、女の子と一緒に同じ目的を果たそうと頑張っているのだ。


 青春。

 この2文字に突き動かされ、俺は張り切っている……!

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