第3話 書店で出会いがあるのは間違いではなかった。

「うーむ、何を読んだらいいのかわからん……」


 休日に県内の大型書店へとやってきた俺。

 地元はちっこい個人経営の店ばかりなので、今日のうちに必要な本をそろえたい。


 膝下から天井に向けて高く設置されている本棚とにらめっこする。

 どれだけ時間が経っただろうか。

 ふと、風鈴の音色を思わせる声に気がついた。


「なにかお探しですか?」


 同じくらいの年ごろだろうか。

 首からエプロンをかけており、ふくらんだ胸部には長方形のバッジがついている。


「あ、いや……えーっと……」


 目的が目的なだけに言葉にするのが恥ずかしい!

 女子高生と思われる店員の女の子は、笑顔を絶やさずに待っていてくれている。


 このまま時間が流れるだけじゃ営業妨害もいいところだ。

 俺は意を決して。


「ライトノベルを探しているのですが」

「はい、陳列してあるのは、ここから――ここまでですね。ご要望の商品がなければお取り寄せも可能ですよ」


 女の子は身振り手振りで応対してくれた。

 親切なひとでありがてえ……。


「実は一度も読んだことがなくて、何から手を付けたらいいかもわからないんです」

「そうでしたか! お客さまのはじめてを私が選ばなきゃいけないんですね……責任重大だ。他の詳しい者をお呼びしましょうか?」

「あ、いや、そこまでしていただくほどじゃないので。なにか選ぶコツってないのかなあと」

「コツ……コツですか……」


 彼女はあごに手を乗せて悩んでいる。

 困らせてしまっただろうか、気が動転しそうだ。


「コツというほどでもないですけど、買い慣れたひとは表紙を見て買いますね」

「表紙?」

「はい、本を飾る絵……イラストを見てですね」

「他にはなにかあるんですか?」

「あらすじだったり、SNSの評判だったり、好みのジャンルだったり、ですかね」

「なるほど」


 女の子は親身に答えてくれたが、俺の欲しい回答は得られなかった。

 このままでは埒が明かないと考え、ぶっちゃけることにする。


「あの、言い忘れていたことがありまして」

「なんでしょうか?」

「読むほうじゃなくて、書くほうに興味があるんです」

「え、今まで一度も読んだことがないとおっしゃっていましたよね……?」

「恥ずかしながら」

「それなのに書こうと思ったんですか?」


 彼女の言葉に、俺は口をもごもごとさせながら。


「高校生になるまで青春らしいこと何一つやってこなかったので、お金があまりかからずにできることで挑戦してみたかったんです。ははは、動機が不純ですよね」

「そんなことありませんよ! 私もいわゆるWeb小説家というやつで、書いていますし、お手伝いできることもあると思います!」


 なんと! 青春の先輩だった!


「しかしハウツー本じゃなく、実際の作品から入ろうとするのはすごい勘ですねえ」

「そうなんですか? とりあえず作品を読んで様子を見てみようと思ったのですが」

「ふふふ。あなた、説明書を読まずにいきなり商品を動かそうとするタイプじゃありませんか?」


 あ、当たってる……!


「おっと、ここで語り尽くせる内容じゃありませんね。私も他の業務もありますし」

「そうですか……せっかく青春の先輩を見つけたと思ったのにこれきりなんですね。すごく残念な気持ちです……」

「連絡先を交換しましょうよ。続きはSNSで色々お話できますし!」

「あ、はい」


 ……それなら今日は買わなくてもいいっか。

 彼女に相談してからでもいいし。

 電車賃がもったいないけど。


 こうして俺は、女子高生と思われるWeb小説家の女の子と知り合いになり、書くためにはどうしたらいいか手ほどきをしてもらうことになった。

 初対面の女の子にほいほい連絡先を交換してしまうなんて、俺もちょろい男なんだなあと気づくのはキャラクターのお勉強をはじめてからになってから……。

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