第2話 古傷

「おまえか、さっきうちのオヤジを暗殺したヤツは」

「よく追いかけてこられたわね……ってか見られた時点で暗殺じゃないか」


 ひと気のない夜の公園。

 水場でなにかを洗っている人物と俺は出会った。声からして女性だとは思っていたが、まさか自分と同じくらいの年ごろとは……。女子高生だろうか?

 夜目をこらしてみると、それらは釘やカミソリやワイヤーといった金属類だった。何に使うかは想像に難くない。水音と手つきからして丁寧に扱っている様子。


 彼女にまっすぐ向き合い、俺は声を張り上げる。


「まずは、お礼を言いたい。ありがとう!」

「は?」


 俺はまず彼女にお礼を述べた。

 すると彼女は、間の抜けた表情といっしょに返答してきた。


 俺は興味津々に続ける。


「うちのオヤジのことを知って、悪を消すためなら罪を犯そうとも構わないとか考えたんだろう?」

「そうね。あなたの父親ったら、カルト教団の教祖で信者からお金を巻き上げているし、巻き上げたお金は女遊びに使っちゃうし、政治家ともずぶずぶの関係だし警察も政府の犬になっているから動かないし、家庭を顧みないどころか文句があるなら別れてもいいんだぞって脅迫するし、暴力は日常茶飯事だし、反社会勢力ともつながりがあるし――――」

「も、もういい! オヤジからひどいめに遭わされた日々がよみがえるよ!」

「あらそう?」


 虐待されていた過去が記憶の底からあふれる……。

 古傷をえぐってくる彼女の言葉を俺は止めて。


「なんでこんなことしてるんだ?」

「わたしも同じような経験があってね、誰も助けてくれなかった。だから自分でやることにしたの。それだけよ」


 なんてかっこいい女の子なんだろう、と俺は思ってしまった。

 そして、無意識に発言していた。


「俺にも手伝わせてくれ」

「え? あなたはもう呪縛から解放されたのだし、元の生活に戻りなさいよ」

「オヤジの汚点は俺を逃してくれないよ。世間さまから見たら犯罪者の息子だし」

「それもそっか……じゃあわたしの助手からはじめてみる?」

「いいのか!?」

「あなたのこと他人だとは思えなくてね」

「ありがとな!」


 こうして俺は暗殺者となり、先輩女子高生といっしょに、悪を減らしている。

 犯人がまさか未成年だとは関係各所にも勘づかれていないらしく、ふたりの暗殺は続けられているのだった。

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