第4話 夢中

「やあ、また会えたね」

「そうね、ふふふ」


 俺はいま、眠っている。

 そういう自覚がある。


 目の前にいる制服姿の女子が中学生なのか高校生なのかはわからない。

 本人は高校生だと言っているけれど。


 周囲を見渡してみても普通の学校となんら変わらない。

 黒板に時計にロッカー、他には時間割り表が設置されている。


「ねえ、どこを見ているの?」

「いや、ほんとに夢なのかどうか怪しくて辺りを見てた」

「おかしなひとね。みんなこうして登校してきているじゃない」

「登校っつーか、夢を見ているんだよな?」


 そう。

 聞けばみんな、「眠っていたはずなんだけど……」と言葉をにごす。

 それほど馬鹿げた現象なのだ。


「夢のほかにあり得ないと思うけれど」

「だよな、確認してみただけだ」


 でも。

 起きている間は、この夢のことを忘れてしまうのだ。

 みんなにもそのことを話して、互いに納得している。

 だから。


「俺たちが起きている時に会うのって叶わないのかなあ」

「私はいまのままでも満足しているけどね」

「ほんとか?」

「うん」


 だって、と彼女は続ける。


「起きたらまた死にたくなる現実が待っているじゃないの」

「それな」


 俺たちはみんな社会からつまみ出された不要品。

 身も蓋もなく言ってしまえば不登校をやっている連中なのだ。

 教師もみなアクシデントに見舞われて職を失った者だけ。


「夢のなかでくらい、普通の学校生活を送れたっていいじゃない?」

「ま、そんなもんか」


 現実では知り合いでもない俺たちが、夢のなかで普通の学校生活を送れている。

 夢のなかだけの関係。

 夢がなかったら赤の他人。


 今日も楽しく夢の住人をやっている。

 彼女の言うとおり、それでいいのかもしれない……。

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