第3話 子連れ地蔵さん
それは、その年の夏の終わりのことでした。
松五郎は竹で編んだ
「今年もみんなで無事に冬を越せますように」
山菜や木の実を
そんなお地蔵さんに今日も松五郎は冬を越せるようにお祈りをしています。
そのとき、お地蔵さんの裏の繁みから音が聞こえてきました。
がさがさ、がさがさ
ははあ、これは小さな動物か、或いは昔のようにお
がさがさ、がさがさ
音の主は松五郎が近づいても気が付かないようです。
これは小動物か何かだなと思った松五郎は、姿だけでも確認するかと目の前の繫みをかき分けると、そこにいたのは顔の真っ赤な二匹のお猿さんでした。だけど、お猿さんにしてはなにか様子が変だぞと思っていたら、人の言葉で話しかけてきたではありませんか。
「ニンゲン。よくないことがおきるぞ。きをつけろよ」
「ニンゲン。よくないことがおきるよ。きをつけてね」
猿が喋ったことに驚き、思わず周囲を見渡すも、とくに変わったことはありません。そして視線を戻すと、その二匹のお猿さんはもういなくなっておりました。
松五郎は村に戻ってから、この不思議な出来事をお
「ああ、そいつはきっと
「何が起きるのだろうね。お
「おれにもまったくだ。だが、
「どうすれば良い?」
「そうだね。今日から
「うん。分かった」
松五郎は若者3人と、それから他の老人たちと毎日、良くないことが果たして何なのか分からないけれど、とにかく懸命に準備をしました。
それから2週間後、これまでの
その日は昼間っからなんとも湿った風が強く吹いていましたが、夜になるとそれはいよいよ勢いを増して、ごおー、ごおー、びゅおー、びゅおーと吹き荒れ、大きな雨粒が家の屋根や壁をばたばたと叩きました。
「おお、恐い、恐い。こんなに強い風は初めてだ」
長く生きたとらでも今まで経験したことが無いような
家もどうにか吹き飛ばされずに
「ここは森に囲まれているから、風の勢いが弱まって助かったんだねぇ」
なるほど、とらの言う通りだと村の中を見て回った松五郎は思いました。そのとき、ふと思い出したのです。自分が5歳になるまで過ごした
「お
「およしよ。
「でも、それでもおっ
「どうしても行くのかい?」
「うん」
とらは少し黙って考えた後、松五郎に優しく話しかけました。
「なら、若い衆をみんな連れて行きな。みんな
「うん。分かった。終わったらすぐに戻ってくるよ」
「そうだな。また一緒に暮らせると良いな。あ、
そうして松五郎は
木々を抜け、
多くの家は潰れ、畑は
早速、山に近く、被害が少なそうな家で村長の居場所を聞き出して、挨拶に行きます。4人が顔を見せると、村長はぎょっとした顔をしていましたが、手伝いたいと言うと、
4人は村長にそれぞれの家族のことも聞きましたが、生き残っていたのは
それでも4人は後片付けを手伝い、持ってきた食料を配り、
不思議なことにその3年の間、誰も
「ああ、いけねえ。そろそろ村に戻らなければ心配しているだろうなあ」
松五郎もとらのことを思い出して
「ああ、そうだなあ。みんな元気でやっているかな」
そして4人はすぐに
けれども、進めど進めど一向に村には辿り着けませんでした。
その後も思い出しては村に行こうとしましたが、いつしか4人は
それから沢山の
あるとき、あの村のことをふと思い出しては思うのです。
ああ、あれはきっと
〔おしまい〕
【童話風】神隠しの松五郎と姥捨てのとら 津多 時ロウ @tsuda_jiro
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