第三十一話 ハカマ・ウォーリアー! 3

 ヒイロお姉ちゃんでは、お姉ちゃんをコピーしたウォーリアーには勝てない。

 相手の攻撃は大したことないけど、防御力が高くて決定的なダメージは与えられず、攻撃力を上げて攻撃しようものなら反射スキルでこちらがやられなねない。

 ハカマ・ウォーリアーは刀を下ろして、ぴんと伸びた背筋でこちらを窺っている。

 ほんとにこの見た目で攻撃力が高くないのが違和感……。

 お姉ちゃんもそうなんだけど。

「ど、どうしよう……? お姉ちゃん、逃げる?」

 顔を覗き込むようにして言うと、お姉ちゃんは僕の目を見て、首を傾いだ。

「逃げる? どうして?」

「え、だって、お姉ちゃんじゃ、あれには——」

「——ふふん。私だけじゃ、だよ。今はランくんがいるでしょ」

「え、僕……?」

 ヒイロお姉ちゃんは僕の頭にぽん、と手を載せて、

「うん。ふたりで攻撃すればいつかは倒せるよ。それにランくん、最低限のVIT以外は全部AGLに振ってるでしょ」

 ある程度攻撃をくらっても耐えられるようにVITには少し振りつつ、僕のUSが一番活きるように、他のほとんどをAGLに割いている。

 でも——

「AGLに振ってるのは相手の攻撃を避けるためだよ。相手の攻撃を全部避けて、ってこと?」

「AGLは『機敏さ』。ランくんの言うとおり、攻撃を避けるのにも役立つけど、攻撃の時にだって関わってくる重要なステータスだよ」

「つまり……?」

「私の〈リフレクション〉はジャストタイミングじゃないと発動しない。AGLの高いランくんの攻撃は読みづらいはずだよ」

「あ、そっか……。じゃあ——」

「私がヘイトを買うね。ランくん」

「うん」

〈ローリング・オーバー〉

 攻撃力と防御力を反転させるサポーターのスキルを使う。

 対象は、

 必要最低限の防御力が、目も当てられないほどに低い攻撃力と入れ替わる。

 これでそこそこの攻撃ができるようになる。

「よしっ、いくよっ!」

〈ソード・アタック〉

 お姉ちゃんが相手に向かって斬りかかった。

「……」

 その攻撃をハカマ・ウォーリアーが太刀で受け止める。

 ハカマ・ウォーリアーがヒイロお姉ちゃんに注目している隙に——

「僕もっ! くらえっ——」

〈ソード・アタック〉

 渾身を使って、低威力・初級のアタッカースキルで相手に攻撃をした。

 今の僕の全力の攻撃。

 これで——っ!


 ——がつん。

 ……、

 ……、

 ……、

「——全然くらってないんだけど……」

 と、ギロッ、と気迫だけはすごいハカマ・ウォーリアーが僕を睨んだ。

 今の攻撃でヘイトを——

〈ソード・アタック〉

 今度は、相手の正面からお姉ちゃんがスキルを叩き込んだ。

 ぐわっ、とウォーリアーがお姉ちゃんに向き直る。

「よし、ランくん。その調子! こうやってちょっとずつ削っていくよ」

「え、うん……」

〈ソード・アタック〉

 相手に少しのダメージを与える。

〈ソード・アタック〉

 今度はお姉ちゃんが。

〈ソード・アタック〉

 次は僕。

〈ソード・アタック〉

 そして、お姉ちゃん。

〈ソード・アタック〉

 ……。

 相手の〈リフレクション〉を警戒しつつ——お姉ちゃんは何回か弾かれてたけど——、地道に攻撃をしていく。

 え、えっと……。

「えっと、これじゃ、いつまで経っても終わらないよ」

「わかってる。ランくん。私が合図したら、お願いね。もうちょっとだけ削ろう」

 あ、そっか。

 ふたりで、倒すんだ。

「——うん。わかった」

 その後も少しずつ、協力して相手に攻撃をしていく。

 その過程で、お姉ちゃんもハカマ・ウォーリアーの攻撃を受けて同じようにダメージを受けている。

 それでも、お姉ちゃんはそのチャンスを狙っているようにして、相手の攻撃を捌きつつ、戦っている。


 そして——

「——っ!」

 そこそこ相手にダメージが溜まり、ハカマ・ウォーリアーが攻撃をしてきたとき——

 お姉ちゃんが目を光らせながら、ガキン、と、相手の攻撃を受け止めた。

 こおおおおお。

 金属音が洞窟の中を反射する。

〈リフレクション〉

 お姉ちゃんは相手の太刀を弾いて、カウンター技を叩き込んだ。

 ダメージは大きくないけど、ぐらっと相手が後ろによろめく。

 その隙に——

「ランくん!」

「わかった!」

〈ローリング・オーバー〉

 攻撃力と防御力を反転させるスキルを発動させる。

 もちろん、対象はヒイロお姉ちゃんに。

 神々しい白い光がお姉ちゃんを包みながら、待ってましたといわんばかりに、お姉ちゃんはすでに太刀を納めて腰を落とし、構えている。

「いくよっ! ランくん!」

「うん!」

 お姉ちゃんがたんっ、と駆け出し、それに合わせて僕も攻撃スキルを発動させる。

 ふたり同時のアタッカースキル。

〈ソード・アタック〉

〈ソード・アタック〉

「——————」

 とんでもない攻撃力を持ったお姉ちゃんの太刀と、必要最低限の攻撃力の僕の直剣が、ハカマ・ウォーリアーを斬った。

【ハカマ・ウォーリアーに勝利した】


「ね、ダブル・ソード・アタックって名前にしよっか。今の」

「あんまりカッコよくない……」



——————————


ラン   US〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

     SS〈ローリング・オーバー〉……味方の攻撃力と防御力を反転させる。もう一度使用すると元に戻る。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。



ヒイロ  『陽暮』

     US〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

     TS〈リフレクション〉……ジャストタイミングで使用することで、近接攻撃を無効にし、二倍の威力にして相手に返す。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。

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