第二十八話 ウォーリアー! 4

【マッスル・ウォーリアーに標的にされた】

 筋肉むきむきのウォーリアーがぐっと、胸を張って咆哮した。

「あほらし。どうしてこうも男って」

「男かどうかはわからないよ……」

 ヒイロお姉ちゃんが、しゃーん、と太刀を引き抜き、刃が松明を受けて緋色に輝く。

〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

「うがあっ!」

〈マッスル・ストレート〉

 通常のウォーリアーとは比べ物にならないほどにむきむきなマッスル・ウォーリアーが、お姉ちゃんに向かって拳を放った。

 武器は装備していない。

 己が身だけで勝負しようとしている。

「よいしょ」

 お姉ちゃんはその拳を太刀で難なく受け止める。

「うが!」

「なに? この程度?」

 カツン、と弾くと、

〈マッスル・ヒットパレード〉

 次々と降ってくる拳を、カンカンカンと、さばいていく。

「たしかに攻撃力には自信がおありなようだけど、そんなんじゃ私には勝てないよ」

 そして——

〈マッスル・ストレート〉

 お姉ちゃんは、狙っていたかのように、ウォーリアーの右ストレートに合わせて、太刀でガードをした。

 こおおおおお。

 固いもの同士がぶつかった音が洞窟内に響いていく。

〈リフレクション〉

 その腕を弾くと、相手の腰から肩にかけてをお姉ちゃんの太刀が滑った。

「うがあっ!」

「よし、ランくん!」

「あ、う、うん!」

 ヒイロお姉ちゃんはすぐに腰を落として、刀身を一度鞘に納めた。

 あまりの要領のよさにちょっとだけ見入っちゃったけど、

〈ローリング・オーバー〉

 お姉ちゃんの攻撃力と防御力を反転させるスキルを使う。

「超高火力っ!」

〈ソード・アタック〉

「——————」

 直進すると同時に抜刀したお姉ちゃんが、ズバンと、巨大なウォーリアーを斬りふせた。

【マッスル・ウォーリアーに勝利した】


「よし、完了」

 ヒイロお姉ちゃんが納刀して、洞窟の奥の方に目をやると、わー、と、ドタドタ音を立てて、小さな何かが数体、逃げていくのがわかった。

 小さいウォーリアーがマッスル・ウォーリアーの戦いを見てたのかな……。

「ね、討伐依頼に来た狩人を返り討ちにしたのってもしかしてこのむきむきのウォーリアーが原因なのかな?」

「うん。そうじゃないかな。——あ、倒してよかったっけ?」

 お姉ちゃんが袴からごそごそと、くしゃくしゃの紙を取り出して、それを広げた。

「うーん、まあ、報告すれば大丈夫かな」

「でも、あんまり強そうじゃなかったけど」

 今のむきむきウォーリアーが狩人を倒してたんだとしたら、あっさり勝てちゃったように思たけど。

「いや、強かったよ」

「え?」

「私の防御力を攻撃に転じた〈ソード・アタック〉でも一発じゃ倒せないし、ほら、〈リフレクション〉でもやられなかったでしょ。だから、〈リフレクション〉でダメージを与えて体勢を崩してから、攻撃したんだよね」

「すごい。そこまで考えながら戦ってたんだ……」

「まあ、ランくんと会う前には、ひとりで戦ってたわけし。ま、さっさと帰ろう!」

 すでにお姉ちゃんは足を帰路に向けている。


 来た道を戻るようにして、洞窟を歩きながらお姉ちゃんが言う。

「なんか『マッスルなんとか』だっけ? スティードに比べたら全然弱かったかなー」

「たしかに、スキルもスティードさんに似てたよね」

 そんなことをしゃべりながら、洞窟を出ようと、外の光に目を細めていると——

 あ、あれ……?

「スティードさんに似てたよね……?」



——————————


ラン   US〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

     SS〈ローリング・オーバー〉……味方の攻撃力と防御力を反転させる。もう一度使用すると元に戻る。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。



ヒイロ  『陽暮』

     US〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

     TS〈リフレクション〉……ジャストタイミングで使用することで、近接攻撃を無効にし、二倍の威力にして相手に返す。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。

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