第二十一話 過去を貫く弾丸3
——ラン。お前に頼みがある。ヒイロじゃない。お前に、だ。
——うん。
——絶対に、手は出さないでくれ。
【テューがルヴィンを標的とした】
「会いたかったよ。ルヴィン」
「はは。こっちのセリフだ。テュー」
町の外れ、丘の上で、ルヴィンさんと『白夜』の犯罪者・テューが互いに銃を抜いた。
ルヴィンさんの身体が光って、
〈クリティカルの発生率・クリティカル時の威力が上昇〉
ルヴィンさんによれば、テューのUSは異なる二種類の武器を装備できるというもの。
そのスキルが発動するのは戦闘中だけではなく、常時であるため、戦闘開始にテューの身体は光らない。
僕とヒイロお姉ちゃんは、少し離れたところで、ふたりの戦いを見ている。
お姉ちゃんは全員でかかってテューを捕えようと提案したけど、ルヴィンさんがそれを断り、僕とスティードさんがその意を酌んで、このような形となった。
〈クイック・ショット〉
ルヴィンさんがテューに向けて、ガンナーの
三連射で、クリティカルしやすいという効果。
ルヴィンさんのUSと相まって、ほとんどの場合クリティカルが発生する。
しかし、テューは——
〈ダガー・トリプル・スラッシュ〉
左手で短剣を引き抜いて、弾丸を切り落とした。
拳銃と短剣。
テューのUSがこのふたつの武器の装備を可能にしている。
「お前……。そんな武器じゃなかっただろ。聖剣はどうした?」
ルヴィンさんが眉根を寄せながら、言った。
テューは自身の短剣を眺め、
「ああ、奴隷時代はね。でも、やっと見つけたんだ。僕のUSが生きる最高の銃の相棒が」
と、刃をルヴィンさんへ向けた。
「奴隷……?」
「騎士だったころのことさ。お前だってそう思うだろ? ルヴィン」
「ああ、思わねぇ」
〈クイック・ショット〉
もう一度、ルヴィンさんの銃口から三弾が発射される。
けど、
〈ダガー・トリプル・スラッシュ〉
またも、撃ち落とされてしまった。
「ね。ルヴィン。どうして僕が〈トリプル・スラッシュ〉なんていう弱い技を採用してるんだと思う?」
テューは笑みを絶やすことなく、飄々とした態度でルヴィンさんに訊いた。
ルヴィンさんは小さく、舌打ちをする。
「ひとりの狩人が持てるロールスキルは三つまで。ルヴィン。お前のスキルは、ひとつ目が今の〈クイック・ショット〉だろ」
テューは銃をホルダーにしまい、人差し指を立てた右手を差し出す。
次に中指を立て、
「そして、ふたつ目が『切り札』だとしても、最後のひとつは、……お前のことだ。〈ライナー〉だろう?」
と言った。
〈ライナー〉は必中するため、ガンナーのASでも使い勝手はよい方だと思う。
だけど、低威力のため、クリティカルしなければ、実用的とはいえないかもしれない。
「つまり、〈クイック・ショット〉さえ封じてしまえば、お前は僕に打点がない。違うかな?」
と、僕の隣で今まで不服そうにふたりを見ていたお姉ちゃんが、あっ、と突然声を発した。
「ねえ、テューの銃、さっきから光ってない?」
それを聞いて、テューの腰を見ると、たしかに、ホルダーから覗く銃口がバチバチとまるで電気を帯びているかのように光っていた。
「じゃあ、止めてみるか?」
ルヴィンさんが銃を構える。
今のテューのセリフは、ルヴィンさんへの挑発。
暗に〈ライナー〉では自分を倒せないと言ってるようなもの。
「ルヴィン!」
それに気がついたお姉ちゃんが大きな声でルヴィンさんを止めようとしたけど——
〈ライナー〉
ルヴィンさんはスキルを放った。
対するテューはルヴィンさんのことはなんでもお見通しと言わんばかりに、ルヴィンさんが発砲する直前に銃を抜き、〈ライナー〉に合わせて、
「フルチャージ」
〈チャージ・ブレス・ブラスト〉
と、バチバチと輝く銃からASを打ち、これを迎え撃った。
〈チャージ・ブレス・ブラスト〉。おそらく、名前からして、発動までに一定のチャージが必要なガンナーのASなんだと思う。
だけど、チャージが必要ということは、その時間を代償に威力が——
テューの銃口からは、まるでドラゴンの息吹のような巨大なエネルギーは発射され、ルヴィンさんの〈ライナー〉を飲み込んだ。
「——!」
そして、ルヴィンさんが大きく吹き飛ばされる。
砂煙が舞う。
「ルヴィン!」
見かねたヒイロお姉ちゃんが一歩を踏み出しそうになった。
けど、煙が晴れると、ルヴィンさんが口元を拭いながら立ち上がっていた。
「どうだ? ルヴィン」
テューが言う。
「〈チャージ・ブレス・ブラスト〉は発動までにチャージが必要。その間は銃の使用はできない。つまり、銃だけ、銃しか使えない普通のガンナーが採用するには厳しいスキルだよね。特に、お前は、……あんなことがあったんだ。ひとりで行動してると思ってね。……ちょっと意外だったけど」
ちらりと、僕とお姉ちゃんの方を見た。
あんなこと。
テューがいうあんなこととは、騎士時代、ルヴィンさんが『白夜』を前にして逃げ出したことを示しているんだと思う。
「だけど、僕は違う」
そして、テューの銃口がもう一度、輝き出した。
一発目を終えて、すでに二発目のチャージを始めている。
「こうして銃が使えない間にももうひとつの武器で戦うことができる。お前じゃ、僕には敵わないよね」
そういえば、さっきからこのテューっていう人、ずっとルヴィンさんから距離をとって戦っている。
短剣を装備しているから、相手と近距離の方が有利だと思うけど、短剣はルヴィンさんの攻撃を撃ち落とすのに使って、遠距離から攻撃をする。
昔相棒と呼んでいただけあって、ルヴィンさんのあの技を知ってるんだ……。
「さ、終わろうか。ルヴィン」
と、テューがチャージ中の銃口をルヴィンさんに向けた。
もう一度、さっきのスキルを使う気だ。
ルヴィンさんも銃を向けて、迎え打とうとする。
——しかし、
「なんちゃって」
テューが地を蹴り、前方へ飛び出した。
予想外だったのか、ルヴィンさんは目を見開いて、少し動揺を見せている。
駆けるテューの動きに、銃口が追いついていない——
〈パラリシス・スラッシュ〉
テューの短剣が、ルヴィンさんを斬った。
短剣でのスキルなだけあって、浅い攻撃に見えるけど、
「あ、あっ、がっ——」
スキルを喰らったルヴィンさんは、膝をガクガクと震わせて、その場に崩れた。
手を地について、倒れないように堪えている。
それでも、銃を手放してはいない。
右手がガッチリと銃を握りしめている。
「てめぇ……」
歯を食いしばって、テューを睨むけど、テューはあはは、と笑った。
スキルを使ったあと、すぐにルヴィンさんから距離をとっている。
この人、終始余裕はみせているけど、一瞬も油断はしていない。
「これのために、短剣に……」
「正解。どう? 蜘蛛の巣に引っかかった虫の気分は?」
そして、もう一度、銃口を向けた。
すでにチャージは終わっている。
ルヴィンさんもガタガタと手を揺らしながら、なんとか銃を構えようとしている。
でも、距離をとられた状態のルヴィンさんのスキルでは、さっきのフルチャージされた〈チャージ・ブレス・ブラスト〉に対抗できない。
僕の隣のお姉ちゃんは、そわそわと落ち着きがない。
今にも飛び出しそうな様子でふたりを見ている。
「で、今日は別にお前を殺しに来たわけじゃないんだ」
銃を向けたまま、テューが言う。
「ねえ、ルヴィン。お前も『白夜』に来ないか?」
「ふざけんな」
ルヴィンさんは歯を食いしばっているけど、テューは笑っている。
「なんだ。まだ法に従う民のために戦うとか言ってるのか? 敵を前にして逃げたお前が」
法……?
「……」
「いいか? ルヴィン。お前に足りないものは勇気だ。あのときも、今も。こっちに来て共に貴族を倒そう。民を支配する貴族を」
「テュー、お前まさか……。『白夜』に囚われてそうなったんだと思ってた。自分の意思で……?」
「そうだ。僕は別に僕を見捨てたお前を恨んじゃいない。思想を聞いて……、『白夜』に惚れたんだ。いいか。法は民のためのものじゃない。貴族、支配者たちのためにある。ルヴィンも『白夜』に来る勇気を出すんだ。こっちに来れば、法に、ルールに縛られない。法に従う民——搾取される臆病な馬鹿のために戦うなんて愚かだろう?」
その時、ヒクッと、ルヴィンさんの眉が動いた。
「貴族を倒すために立ち上がった勇敢な同士となろう。なあ、相棒」
テューが言うと、ルヴィンさんは、そうか、と少し視線を落とした。
「……、……すまなかったと、テュー、お前を『白夜』から助け出そうと、ずっと、俺はそう思っていた……。だけど——」
そして、ルヴィンさんは震える手を堪えて、銃口をテューに向け、
「俺はお前を標的とする」
そう、言った。
「——そうか。じゃあ」
テューはバチバチと鳴る銃のトリガーにかけられた人差し指に力を込めた。
「ありがとう。僕を『白夜』に導いてくれて。臆病な相棒でよかったよ」
——と、
「ルヴィン!」
ついにお姉ちゃんが、駆け出そうとした——
「待って!」
そのお姉ちゃんの腕を強く、掴む。
ヒイロお姉ちゃんは、信じられない、といった表情で僕を見た。
「え……? なんで、なんで!? ランくん! ルヴィンが! ルヴィンが死んじゃうよ!」
「でも……、それだけはダメだよ」
「……ふっ」
その時、ルヴィンさんが小さく口角をあげたのが見えた。
「ね。そこの男の子。もしルヴィンが負けたら、僕を見逃してくれるっていう約束は守るんだよね?」
テューが目線だけを僕たちの方へ向けて、訊いた。
ルヴィンさんは、戦う前に、テューと、僕たちとそういう約束をした。
そうじゃないと、ルヴィンさんとの戦いの後に、僕たち『クリミナ・セレス』の狩人が一斉にかかったら、テューもひとたまりもないと思う。
そのため、スティードさんも町に残っている。
僕とスティードさんはできる限りルヴィンさんの思いに応えたいと思った。
お姉ちゃんだけが反対したけど、今回はお姉ちゃんを止めるために、僕がいる。
「守るよ。絶対に」
僕が首を縦にゆっくりとたしかに、動かした。
「何言ってるの? ランくん……」
唇を噛みながら、お姉ちゃんが腕にしがみついた僕に言う。
「じゃあ、安心してお前とさよならできるな。ルヴィン。——フルチャージ……」
〈チャージ・ブレス・ブラスト〉
ついに、巨大なエネルギー弾が、ルヴィンさん喰らおうと、打ち出された。
「ルヴィン!」
ヒイロお姉ちゃんの悲鳴をかき消すような轟音をまとった息吹が、ルヴィンさんへ襲いかかる。
と、その時——
まるで時が止まったように〈チャージ・ブレス・ブラスト〉が静止しているように見え、かっ、と、ルヴィンさんの身体が、金色に輝いた。
USが発動した時に発される光とは比べ物にならないほどの眩しい光がルヴィンさんを包んでいる。
「ありがとう、ラン」
《エボリューション〈クイック・ショット〉》
煌めくその光が渦を巻くように、銃口に集まっていく。
その光が集まって、凝縮されたような小さなエネルギーの球体のようなものができあがっていく。
あれは……?
「
お姉ちゃんが小さく呟いた。
《イクスパンション・スターマイン》
銃口に凝縮された球型のエネルギー弾が、ルヴィンさんの銃から発射された。
球は速くはないが、〈チャージ・ブレス・ブラスト〉に吸い込まれていくように進んでいる。
そして、相手の弾に着弾すると——
小さな球体のエネルギーが、膨張を始めた。
徐々に大きくなっていく。
そのエネルギーの中では——
バチバチと、まるでスターマインのように何千発もの爆発が打ち上がっていた。
球体が地に触れると、中の爆発が一瞬で地面を削っていく。
そして——
ついに、その球体の外周がテューに触れた。
その瞬間、エネルギーの中の幾発もの弾丸が爆ぜ、弾かれるようにテューが後方へ吹き飛ばされた。
「があっ——」
【Critical】【Critical】【Critical】【Critical】【Critical——
爆ぜた回数、クリティカルの判定があるようで、テューには無数の【Critical】が表示された。
先ほどのルヴィンさんのように、今度はテューが膝をついて、倒れ込んでいる。
「はぁ、はぁ……、がはぁっ——! くっ……」
「……。よかったな、テュー。外周に触れただけでよ。まともに飲まれてたら今ので戦闘不能だ……」
テューが大きなダメージを受けたことで、麻痺の効果が切れたのか、ルヴィンさんが、ふらふらとテューに近づいていく。
「い、いまのは……?」
「さあ? 俺もわかんねぇ。〈クイック・ショット〉が進化したってところか」
「はぁ……、くそっ……」
テューもゆっくりと、立ち上がる。
そして、ルヴィンさんとテューは——
がつん、と、互いの銃口同士を打ちわせた。
銃の距離は、ゼロ。
「ふっ……、最後は『切り札』で決めようか。ルヴィン」
「ああ、いくぜ。……テュー」
トリガーを、引く。
〈インストゥル・バースト〉
〈インストゥル・バースト〉
【Critical】
「——————」
天を仰ぐように、テューが宙を舞った。
【テューに勝利した】
——————————
ルヴィン 『クリティカルガンマン』
US〈クリティカルの発生率・クリティカル時の威力が上昇〉
AS〈クイック・ショット〉……三連射。クリティカルしやすい。
AS〈ライナー〉……必中。クリティカルしやすい。
AS〈インストゥル・バースト〉……近距離で発動するほど威力上昇。
EVS《イクスパンション・スターマイン》……〈クイック・ショット〉が進化。膨張する弾丸が相手を包み、爆ぜる。
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