第十六話 マッスルウィズダム降臨3

 両者とも前回の貴族と戦った広場に移動して。


【スティードに標的にされた】

 勝っても何の得にもならない勝負が開戦した。

 この人こんな見た目でスティードっていう賢そうな名前なんだ……。


「うおおおっ!」

 マッスルウィズダムが両拳を握り、気合の入った声を発した。

 マッスルウィズダムの身体が金色に煌めく。

 相手のUSユニークスキルが発動した。

「よし、行くよ。仕事前の準備体操だ」

「うん」

 ヒイロお姉ちゃんと僕は各々の武器を抜刀し、身体が煌々と輝く。

〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

「まずは貴様からだ! 『陽暮』っ!」

 マッスルウィズダムが飛び出した。

 左手でお姉ちゃんに狙いを定め、右拳に力を込めている。

「うおおおっ!」

〈マッスル・ストレート〉

 お姉ちゃんに向かって、一気に振り抜いた。

 高い防御力をもって、それを太刀で受け止めようとする。

 が——

「っ————」

 ものすごい衝撃音とともに、風圧が周囲を襲った。

 目を開けると——

 お姉ちゃんが数メートルも吹き飛ばされ、倒れていた。

 マッスルウィズダムの身体が光っている。

「お姉ちゃん!」

 お姉ちゃんに駆け寄る。

「痛た……、なにこれ……?」

「お姉ちゃん……?」

「うん。大丈夫……」

 お姉ちゃんが太刀を拾いながら、立ち上がる。

「ふはははは。さすが『陽暮』だ」

 マッスルウィズダムが、右腕をゆっくりと回している。

 じりじりと距離を詰めてきた。

「うっ」

「強いよ。この人……」

 お姉ちゃんが太刀を構え、腰を落とした。

「さあ、これを受け切れるか?」

 ぐっと、マッスルウィズダムが胸を張り、両拳を強く握りしめる。

「ランくん。下がって——」

「いくぞ。マッスル……」

〈マッスル・ヒットパレード〉

 込めていた力を一気に解き放ったようにして、お姉ちゃんに向かって何発も両手を振るった。

「うっ————」

 最初に戦ったマッスルツリーも同じスキルを使っていたけど、それとは比べものにならない。

 お姉ちゃんは太刀で受けながらも、押されてしまっている。

 乱打は数秒続いたのち、マッスルウィズダムの左手がついにお姉ちゃんの体勢を崩した。

 ぐっと、右に力を込める。

 お姉ちゃん————

「マッスル……」

〈マッスル・ストレート〉

 一瞬の隙をついて、渾身の右拳がお姉ちゃんに襲いかかった。

 が、

 ぎりぎりのタイミングで、お姉ちゃんが左手で持った太刀でそれを受け止める。

 一瞬、辺りが水を打ったようにに静まり返った。

 これは——

〈リフレクション〉

 マッスルウィズダムの左腰から右肩に掛けてを太刀が滑る。


 しかし——

 マッスルウィズダムは倒れなかった。

 身体が煌めく。

 口角をいやらしく上げている。

「うそ……」

 お姉ちゃんは呆然としていた。

 手に力が入らないのか、太刀を下ろしている。

「ふはははは。残念だったな。だが、カウンターを決めたことは褒めてやろう」

「なんで……? 〈リフレクション〉はあなたの攻撃を二倍にして返すスキル。あんなに威力の高い攻撃を倍にしたのに、効かないなんてこと……」

「最後に、俺のUSを教えてやろう」


US〈相手に与える近接攻撃の威力が二倍。相手から受ける近接攻撃を半減〉


 僕もお姉ちゃんも開いた口が塞がらなかった。

「じゃあ、私の攻撃は全部半減されるのに、あなたの攻撃は倍になるってこと……?」

「ふん、その通りだ。シュトロフォーネのように相手を選ぶことがない」

「でも、〈リフレクション〉なら、二倍の半減だから、等倍だよ」

「自分のスキルのダメージでやられるほど俺はやわじゃないぞ」

 ……。

 この人、こんなに強いUSがあるのに、それだけに頼っていない。

 ちゃんと鍛えてるんだ。

 この町の五本指を自負するだけの努力がある。

 マッスルウィズダムはぐっと、右腕を構えた。

〈マッスル・ストレート〉

「——————」

 無防備なお姉ちゃんに、右拳が炸裂した——


 そして——

〈ソード・アタック〉

〈マッスル・ストレート〉

「——————」

 抵抗も虚しく、全力で振り抜いたマッスルウィズダムの拳が、僕を吹き飛ばした。


【スティードに敗北した】


——————————


ラン   US〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

     SS〈ローリング・オーバー〉……味方の攻撃力と防御力を反転させる。もう一度使用すると元に戻る。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。



ヒイロ  『陽暮』

     US〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

     TS〈リフレクション〉……ジャストタイミングで使用することで、近接攻撃を無効にし、二倍の威力にして相手に返す。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。



スティード 『マッスル・ウィズダム』

     US〈相手に与える近接攻撃の威力が二倍。相手から受ける近接攻撃を半減〉

     AS〈マッスル・ストレート〉……通常攻撃。

     AS〈マッスル・ヒットパレード〉……連続攻撃。

     AS〈?〉……?

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