第十四話 マッスルウィズダム降臨1

 この町『クリミナ・セレス』には、二つ名を有する優秀な狩人がいる。

 ヒイロお姉ちゃんの『陽暮ひぐらし』、ルヴィンさんの『クリティカルガンマン』を含めて、五人。

 その中でもっとも強いとされているのが、『マッスルウィズダム』と呼ばれる狩人だった。



 ちゅんちゅん……。

 さわやかな朝。

 柔らかな陽がカーテンを通って、部屋を白く照らしている。

「お姉ちゃん、行くよ」

 リュックを背負いながらお姉ちゃんに声を掛ける。

「ランくん。ちょっと待って」

 振り返るとヒイロお姉ちゃんが鏡を見ながら、髪留めを咥えて、長い髪を後ろでひとつにまとめていた。

 わあ……。

「ん? どうしたの?」

 その体勢でこっち見ないでよ……。

「もしかして、お姉ちゃんに見惚れちゃった?」

 髪を結い終わったお姉ちゃんが膝を曲げて、顔を覗かせてきた。

 ……。

「もう……。早く行くよ」

「あはは。ランくんはかわいいなぁ」



 ごちん。

「痛て」

 宿を出ようとしたら、入り口で何かにぶつかった。

 僕より大きい、巨大な岩が扉の前に設置されている。

「痛てて……」

 おでこを打ったみたい。

「ランくん、大丈夫?」

 お姉ちゃんが屈んで、掌で僕の前髪を上げてくれる。


「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」


 まだヒリヒリするおでこに、お姉ちゃんの綺麗な手が触れた。

「あちゃ、思いっきり打っちゃったね」

「うん……」


「おい」


 おでこの打ち付けたところを、優しくさすってくれる。

「腫れてきちゃったね。一回部屋に戻って冷やそっか」

「ごめんね。前見てなくて……」

 まさか岩が置かれてるなんて思ってなかったから。

「いいよいいよ。おいで」

 お姉ちゃんに続いて、部屋に戻ろうとすると——


「おいって!」


 後ろから大きな声が降ってきた。

 びくっとして振り返ると、巨大な岩が置いてあるだけだった。

「貴様が『陽暮』だな?」

 岩がしゃべった……?

「ん? もしかして……」

 お姉ちゃんが眉をひそめながら、人差し指と親指を立てて、顎に置いている。

 岩と玄関の間からは、朝日が差し込んでいる。

「あ、逆光か。すまん」

 と、岩が数歩下がった。

 あ。

「人だ……」

 筋肉むきむきの巨漢が宿の前でフロントダブルバイセップスをキメていた。


——————————


ラン   US〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

     SS〈ローリング・オーバー〉……味方の攻撃力と防御力を反転させる。もう一度使用すると元に戻る。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。



ヒイロ  『陽暮』

     US〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

     TS〈リフレクション〉……ジャストタイミングで使用することで、近接攻撃を無効にし、二倍の威力にして相手に返す。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。

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