第十二話 横暴貴族をやっつけろ! 2

 町の広場では、わやわやと町の人たちが集まってきた。

「おい、『陽暮ひぐらし』とクソ息子がやるらしいぞ」

「『陽暮』ってたしか、太刀じゃなかったか……」


 その中心で、ヒイロお姉ちゃんと僕、先ほどの男性が対峙する。

「はは、じゃあ、始めようか。ここなら証人となる民衆がたくさんいる。もう一度誓え。負けたら、私の下で働け」

 男性は周りにも聞こえるように大声で言った。

 あとから言い逃れができないように。

 でも、それは僕たちも同じ条件。

「いいよ。だけど、あなたが負けたら狩人への制約を全部撤廃すること。絶対だよ」

 お姉ちゃんはびしっと、指を差した。

「ああ。負けたらね。ただし、君たちのパーティー以外は私に手を出さない。これだけは守ってもらいたい」

「もちろん。そんなヒキョーなことしないよ」

「ふっ」

 男性は口角を上げ、左腰の細剣に手を掛けた。


【シュトロフォーネに標的にされた】


 男性・シュトロフォーネが剣を引き抜き、身体が光った。

 相手のUSユニークスキル発動した。

「ランくん、がんばるよ」

「うん」

 負けじと僕らも抜刀する。

〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

 勝敗に影響しない残念なUSが発動する。

「さあ、どこからでも」

 シュトロフォーネが左手を広げた。

 剣を構えることもなく、隙だらけな様子を見せる。

 自信のような不確実なものでなく、何か確証があるような姿。

「よし、じゃあ、私から攻撃するよ。ランくん、〈ローリング・オーバー〉を」

 〈ローリング・オーバー〉は攻撃と防御の値を反転させるスキル。

 つまり、タンク職のヒイロお姉ちゃんの場合、攻撃力が大幅に上がり、反対に防御力が下がる。

 でも、今は……。

「いや、使わない方がいいかも。あれだけ余裕を見せるってことは絶対何かあるんだよ。だから、万一のために防御力が高い方がいいと思う」

「そっか。うん、わかった」

 お姉ちゃんは、ぽん、と僕の頭に手を乗せたあと、シュトロフォーネに向かって駆け出した。

「いくよ!」

〈ソード・アタック〉


 ぶん。

「わ」

「え……?」

 お姉ちゃんが太刀を振り下げ、その勢いのまま体勢を崩した。

「あっはははは!」

 一太刀浴びたはずのシュトロフォーネはその場から一歩も動かず、下品な笑い声を上げる。

「すり抜けた……?」

 今の瞬間、お姉ちゃんの刀がシュトロフォーネの身体をすり抜け、空振りしたように見えた。

「……」

「確かめてみたらどうだ?」

 もう一度、お姉ちゃんが下から上へ切り上げる。

 が、

 ぶん。

 シュトロフォーネの身体をすり抜けた。

 うそ……。 

「ふふっ、さあ、悪いことは言わない。降参しろ。大衆も見ている前で、女性と子どもを痛ぶることはしたくない」

「効かないの……?」

 お姉ちゃんが数歩下がる。

 シュトロフォーネは余裕を崩すことなく、首元に手を添えた。

「ああ。『陽暮』とそこの小僧では絶対に私に勝てない」

 もう一度、お姉ちゃんは太刀を構え、突いた。

 貫いているようにも見えるが、先ほどと同様に身体をすり抜けていて、シュトロフォーネにダメージはない。

「無意味だ。教えようか。私のUS」


US〈自分への斬撃属性の攻撃をすべて無効化する〉


 斬撃をすべて、無効化……?

「あっはははは!」

 鳩が豆鉄砲を食らったような様子の僕らを見て、もう一度シュトロフォーネが声を上げて笑った。

「……そんなの、僕らじゃ勝てないよ」

「そうだ。さあ、降参するんだ」

 ははは、と笑いながらシュトロフォーネが近づいてくる。

「絶対、ヤだよ」

 瞬間、ヒイロお姉ちゃんが——

 相手のお腹に拳を叩き込んだ。

「ぬう」

「お姉ちゃん……」

 シュトロフォーネは驚いた様子を見せたが、

「あっはははは! これは面白い。こんなことをしたやつは初めてだ!」

 と、笑った。

 武器ほどの威力はないけれど、微かにダメージはある。

 お姉ちゃんそれで……。

「まぁ、それでこそ『陽暮』だな。気に入った。降参する気は?」

「ないよ」

 それを聞いて、ふ、と鼻で笑い、ようやくシュトロフォーネが細剣を構えた。

「では、実力で従ってもらおう」

 何かエネルギーのようなものが渦を巻いて、細剣に集まっていく。

 細剣を中心に、シュトロフォーネが輝いている。


〈ロイヤル・サンライトロード〉

 ——!

 突いた細剣から巨大な高速の光が放たれ、ヒイロお姉ちゃんを襲う。

 太刀でガードしていたが、受けきれない。

 お姉ちゃんの身体が強く後方へ吹き飛ばされる——

「——————」

「お姉ちゃん——!」

 僕のところまで飛ばされたお姉ちゃんを受け止め、僕もいっしょに地面に倒れた。

「……」

「……、お姉ちゃん、大丈夫!?」

 半身を起こして、僕の上で倒れているヒイロお姉ちゃんを見る。

「……ランくん、痛てて……。大丈夫。まだやられていないよ」

「でも……」

 今のは、貴族専用の細剣の上位スキル……。

 防御力の高いお姉ちゃんでも、今のだけで相当のダメージを受けてしまった。

 シュトロフォーネ。

 口だけじゃなくて、こんな大技も使えるなんて……。

「さあ、そろそろ降参したらどうだ?」

 ……。

 たとえダメージが微かでも、お姉ちゃんはシュトロフォーネに抗った。

 この人に縛られる狩人を助けるために。

 じゃあ、僕だって……。


〈クイック・ショット〉

「ぬあっ!」

【Critical】

 その瞬間、シュトロフォーネに複数の弾丸が命中し、片膝をついた。


「ルヴィンさん!」

 僕の後方では、ルヴィンさんの銃口から煙が上がっていた。


——————————


ラン   US〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

     SS〈ローリング・オーバー〉……味方の攻撃力と防御力を反転させる。もう一度使用すると元に戻る。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。



ヒイロ  US〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

     TS〈リフレクション〉……ジャストタイミングで使用することで、近接攻撃を無効にし、二倍の威力にして相手に返す。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。



ルヴィン US〈クリティカルの発生率・クリティカル時の威力が上昇〉

     AS〈クイック・ショット〉……三連射。クリティカルしやすい。

     AS〈ライナー〉……必中。クリティカルしやすい。

     AS〈インストゥル・バースト〉……近距離で発動するほど威力上昇。

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