第十一話 横暴貴族をやっつけろ! 1

「やあ。君が『陽暮ひぐらし』かな?」

 ギルドの二階席にて。

 いつものようにヒイロお姉ちゃんとふたりでお茶を飲んでいると、すらりと身長の高い男性が声を掛けてきた。

 金のウェーブが掛かった髪型で整った顔立ちをしており、服装は白のシャツの上に、紺のベスト、その上に、裾の大きなコートを羽織っている。

 げ。

 絶対偉い人だ……。

 どこかで見たことあるような気がするし。

「ヒグラシ? 私じゃないです。他を探してください」

 というか、ランくんとのお茶の時間をジャマしないでください(ぼそ)。

 ヒイロお姉ちゃんはその男性を横目で見て、掌の上に顎を載せた。

「そうか? 黒髪に袴、それに太刀。特徴は『陽暮』で間違いないと思うんだが……」

「私そんな虫みたいな名前じゃないです。他を当たってください」

 あ、『陽暮』ってたしか。

「ねぇ、『陽暮』ってお姉ちゃんの異名だよ。ほら、お姉ちゃんの活躍に敬意を表して、町の人たちがそう読んでるんだって」

「ふーん。キョーミないなー。……で、私に何の用事ですか?」

 用事がないなら、早く帰ってください(ぼそ)。

 お姉ちゃんはむすっとした様子のまま、男性に目線だけを向ける。

「いやぁ、君の狩人ハンターとしての活躍は耳に入っているよ。先日も誘拐から少女を救ったそうじゃないか」

「はぁ、どうも。で?」

 男性は、んっ、と一度咳払いをしたのち、首元に手を添えて、


「で、君たちは誰の許可を取って狩人をやっているんだい?」

 と言った。

 許可……?

「えっと、僕たちギルドからライセンスをもらってますけど……」

 狩人免許ハンターライセンスを見せる。

 すると男性は微笑し、払い除けた。

「はは、冗談を。私の許可は得たのかと訊いたんだ」

「なんであなたの許可がいるんですか?」

 今まで相手にしていなかったお姉ちゃんもさすがにむっとしたらしい。

 眉根を寄せている。

「ふっ。私を知らないのか。私はこの町『クリミナ・セレス』を治める——」

「あ、わかった!」

 この人、あれで見たことある。

「……ちょっと、お姉ちゃん」

「ん?」

 お姉ちゃんに耳打ちをしようと、顔を近づける——

 ——と、お姉ちゃんも口を向けてきた。

「キス?」

「違うよ」


「……あの人、依頼書で見たことあるよ。ギルドの狩人の活動に制限を設けて、お金を巻き上げるっていう……」

「……依頼書? じゃあ、あの人を倒せば、報酬がもらえるの?」

「……や、ちょっと前に見ただけ。たしか、その依頼を出した人が罰されてた。あの人本人に……」

「……」

「……あの人の所為せいで、自由に仕事ができない狩人がたくさんいるんだ。でも、権力には逆らえない……」

「……ふーん。なるほどね」

「はは。私に従う気になったか。では、ひとつの依頼を達成するごとに、その報酬の二割を私に納めなさい。さあ、誓約書だ」

 僕が世間知らずのお姉ちゃんに説明をしてると思ったのか、男性は紙とペンを胸元から出してきた。

 しかし、お姉ちゃんはペンを受け取ることなく、机に掛けていた太刀を手に取った。

「ねぇあなた、私たちと勝負しない? 狩人から不正にお金を巻き上げてるって聞いたよ。私に負けたらそんな誓約……、いや制約か。制約書は無効にすること。わかった?」

「はは、やはりこの町は馬鹿ばっかりか。……太刀と、直剣か」

 僕とお姉ちゃんの武器を見て、男性が呟いた。

「いいだろう。その代わり君たちが負けたら、『陽暮』は私の下で働け。いいね?」

「望むところ。狩人として、町の人を困らせるあなたを標的ターゲットとします」


——————————


ラン   US〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

     SS〈ローリング・オーバー〉……味方の攻撃力と防御力を反転させる。もう一度使用すると元に戻る。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。



ヒイロ  US〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

     TS〈リフレクション〉……ジャストタイミングで使用することで、近接攻撃を無効にし、二倍の威力にして相手に返す。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。

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