第九話 初めての敵US2

【ボイドーに標的にされた】


「俺のUSユニークスキルは最強だ。見逃さなかったこと、後悔しな」

 男・ボイドーの身体が煌々と輝く。

「お姉ちゃん」

「うん。あいつだけは絶対に許さない」

 僕は直剣を、お姉ちゃんは太刀を引き抜く。

 そして、僕らの身体も同様に煌々と輝き、USが発動——

 ——しない。

「あれ?」

「なにこれ?」

 代わりに僕らの身体を青く暗い光が包んだ。

 これはデバフのエフェクト……?

 相手のUSが、僕とお姉ちゃんに不利な効果を与えるものってことなのかな。

「へへ。動揺してやがるな」

 ボイドーがヒイロお姉ちゃんに向かって飛び掛かった。

 直剣を乱雑に振るう。

 かんかん、と、お姉ちゃんはそれを太刀で受けていく

「くっ……!」

「ははは。そんなもんか」

〈クロス・スラッシュ〉

 直剣のASアタッカースキル

 よろめいた隙をついて、光の線がクロスを描き、お姉ちゃんに襲い掛かる。

 がつん。

「ヒイロお姉ちゃん!」

「っ、大丈夫」

 お姉ちゃんの太刀からは、しゅー、と煙が上がっていた。

「……? 今のでそれしか削れないのか……」

 ボイドーが眉を顰めた。

 あ、この人もお姉ちゃんをアタッカーだと勘違いしてるんだ。

「ちっ、じゃあ、そっちの小僧からだ」

 お姉ちゃんにダメージが通りにくいとわかると、標的を僕に切り替え、剣を振り上げた。

「おらあ!」

〈クロス・スラッシュ〉

 まずい、避けないと……!

 あれ——?

「ぐえっ」

 ——っ!

 僕の胸にクロスが描かれ、後方へ飛ばされる。

「ランくん——!」

「痛たた……」

 やっぱり「少し減少」じゃ、避けられないか……。

「はっ、よそ見したな」

〈ソード・アタック〉

 ボイドーは続けて、僕に気を取られたお姉ちゃんに向けて剣を振った。

 しかし、ヒイロお姉ちゃんはそれを見越したかのように太刀で受け止め、

〈リフレクション〉

 カウンター技を叩き込んだ。

 ボイドーの左腰から右肩に掛けてを、太刀が滑っていく。

 が、

「へへ……」

 ボイドーは倒れず、少し退いただけでその場に踏ん張った。

 口元を左手で拭う。

「強い……。カウンターで倒れないなんて……」

「わざとだよ。わざと低威力技で様子見をしたんだ。これで私がタンクだってことバレちゃった」

 お姉ちゃんも隠してる気でいたんだ……。

「ははは。お前ら、思うように動けないだろ?」

「やっぱり私たちに何かしたんだ。あなたのUSで」

 そっか。

 この人が強く感じるのは、USで僕たちにデバフを適応させたから……。

「知りたいか。俺の最強のUS」

 こくん、と頷く。

「俺のUSはな……」


US〈バトルに参加しているすべての者のUSを無効化する〉


 え……?

 お姉ちゃんと顔を合わせる。

「ふははは。ほとんどの狩人ハンターは自らのUSを軸にして戦う。つまり、俺と戦う相手は皆、勝利への鍵を失うようなものだ」

 ……。

 ぷっ。

「あはははは」

 それを聞いたヒイロお姉ちゃんが笑い声を上げた。

「なに? そんなUSだったの?」

「ね。警戒して損したね」

 お腹を抱えて、人通りの少ない路地裏に、僕とお姉ちゃんの軽快な笑い声が響いた。

「何がおかしい……?」

 予想した反応と違ったのか、ボイドーは怒ることもなく、ただ呆然としていた。

「だって、だって。それってつまり、あなたと戦う時はUSなしの特殊ルールで戦うみたいなものでしょ。それにあなただってUSがないみたいなものじゃない」

 ひー、おかしい、と、お姉ちゃんは笑い転げている。

 さすがに腹が立ったのかボイドーは、

「相手のUSを無効化するんだぞ!」

 と、少し幼稚な様子で、声を荒げた。

「相手のUSだけじゃなくて、味方のUSも無効化しちゃうじゃない。だから、あなたパーティーメンバーがいなくてひとりなんだね。かわいそー」

 あはは。

「てめぇ……」

「はー、笑いすぎちゃった。……よし、相手のUSもわかったことだし、さっさと倒しちゃおっか」

「そうだね」

 ぱんぱんと、顔を叩いて相手に向き直る。

「じゃあ、ランくん。あれ、やってみよっか」

「うん」

 お姉ちゃんのために習得した僕のSSサポータースキル

「いくよ。お姉ちゃん」

〈ローリング・オーバー〉

 僕の手が白く輝き、そこから放たれる神々しい光がお姉ちゃんを包んだ。

 これは仲間の攻撃力と防御力を反転させるスキル。

「すごい……」

 ヒイロお姉ちゃんの攻撃力と防御力が反転し、タンク職の高い防御力が攻撃力になる。

「よーし、ランくんの応援を受けた私は最強だよ!」

 ぴかーっと、僕のスキルとは関係のない謎のオーラを放っているように見える。

 なんだろう、あれ……?

 気持ちの問題かな。

「な、なんでてめぇら、USが無効化されてんのに……」

 その気迫に押されたのか、ボイドーが一歩下がった。

「なんでって、そんなの決まってるじゃん!」

 お姉ちゃんは太刀を一度納めてから、柄に手を掛け、ボイドーに向かって飛び出した。

「超高火力っ!」

〈ソード・アタック〉

「——————」

 ヒイロお姉ちゃんの刀身が一閃した。


【ボイドーに勝利した】


「私のUS、勝敗に影響しないから」


——————————


ラン   US〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

     SS〈ローリング・オーバー〉……味方の攻撃力と防御力を反転させる。もう一度使用すると元に戻る。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。



ヒイロ  US〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

     TS〈リフレクション〉……ジャストタイミングで使用することで、近接攻撃を無効にし、二倍の威力にして相手に返す。

     AS〈ソード・アタック〉……低威力技。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る