第四話 クリティカルガンマン・ルヴィン登場1

 ちゅん、ちゅん……。

 カーテンを伝って朝日がベッドに入ってくる。

 今日はなんだかいつもより温かい。

 それに、すごく心地が良い。

 抱擁されている感じがする。

 さわさわとお姉ちゃんに髪を撫でられた。

「……おはよ。ランくん」

「……あ、ヒイロお姉ちゃん。おはよう」

 つやつやした綺麗な白い肌……。

 気持ちいい……。


 ——って、

「だあああああああ!」

 力一杯布団をひっぺがした。

 ベッドの上では、キャミソール姿のヒイロお姉ちゃんが目を擦っている。

 片方のヒモ外れてるし。

「……どうしたのー? そんなに大きな声出して」

 部屋に、入ってきた……。

 対人狩人ハンターさんを呼ばないと。

「……ねぇ、ランくん。お姉ちゃんまだ眠いんだけど。もうちょっと、いっしょに寝よ」

「僕言ったよね。部屋に入ってきたら捕まえるって」

「うんん。ランくんは部屋に連れ込んだら捕まえるって言ったよ」

「いっしょだよ!」

 もう……。

「今日はいいけど、もう忍び込んじゃダメだよ」

「ん? 私もう帰る場所ないよ」

「どういうこと?」

「今まで住んでた宿はもう出てきちゃった」

「へ?」

「だから見て。荷物も全部持ってきたの。これからよろしくね、ランくん」

 ベッドの下には巨大な袋が置かれ、それに太刀が立て掛けられていた。

 なんてこった……。



「ねぇ、ランくん」

「なに?」

「手つなごっか」

「それはヤだよ。こんな人のいるところで……」

「じゃあ、人が少なかったらいいんだ?」

「……」

「いいんだ! かわいー」

 不法侵入お姉さんと町の商店通りを歩く。

「あ、みて! 武器売ってるよ。片手剣新調しなくてもいい?」

 武具屋さんには剣を中心にさまざまな武器や防具が並べられていた。

 もちろん盾も。

「ヒイロお姉ちゃんが盾買った方がいいよ」

「あ、そういえば」

 無視するし。

「ランくんはロール決めたの?」

 ロール。

 この世界の狩人には、三つのロールがある。

 アタッカー、タンク、サポーター。

 お姉ちゃんが選んだタンクは、ヘイトを獲得してパーティーメンバーを護る役職。

 普通、というかほとんどのタンクが盾を装備しているのだけれど……。

「僕はサポーターにしようかなって」

「サポーター? どうして?」

「すごいSSサポータースキルを見つけちゃったんだ。ヒイロお姉ちゃんにぴったりのスキルだよ」

「私に?」

「うん。今度使ってみるよ」

 すると、何やらお姉ちゃんはにやにやしだして。

「へー、私のためのスキルなんだ。えへへ、嬉しいなー」

「あ、ねぇ、お姉ちゃん。狩人ってひとりにつき三つのロールスキルを習得できるんだよね? まだお姉ちゃんのTSタンクスキルは〈リフレクション〉しか知らないけど、他に何があるの?」

 アタッカーなら、ASアタッカースキルを、サポーターならSSサポータースキルを、それぞれ三つずつ習得できる。

「私? 〈リフレクション〉しかないよ」

 なんともないようにさらっと応えた。

「え、他には習得しないの?」

「〈リフレクション〉以外の有用なTSは全部盾の装備が必須だから」

「じゃあ、盾装備してよ!」

 やっぱり盾を持たないタンクは想定されてないんだ。

「そもそも、どうしてそんな格好をしてるの?」

 袴に小袖、太刀。

「カッコよくない?」

「かっこいいけど。それだけ?」

 うーん、と人差し指を顎に置いて、上を向き、

「憧れの人がこんな格好をしていたから、かな」

「憧れの人?」

「私のピンチを救ってくれたの。太刀でずばーんって」

「それで、その人の真似をして?」

「そんな感じかなー。でも、私のUSユニークスキル的にタンクが一番いいかなって思って、それでタンクになったの」

 お姉ちゃんのUSはあってないようなものだと思うけど……。

 初めから防御力のステータスがほんの少しプラスされてるようなものだし。


 そんな会話をしながらヒイロお姉ちゃんとストリートを歩いていると、右前方の建物に背を預けて立っている男の人がこちらを見ていることに気がついた。

 全身黒尽くめのカチッとしたフォーマルそうな服。

 厚いブーツを履き、きらきらした装飾をいたるところに着けている。

 頭はさっぱりした黒の短髪、口にはタバコが咥えられている。

 けど、タバコに火は点いていない。

 怖そうな人だけど、なんで火を点けてないタバコを咥えてるんだろう……。

 あんまり関わりたくないから、その人の前を通りすぎようとした時、

「待て」

 と、止められた。

 ふたりで彼の方を見る。

「女の方」

 左手で咥えていたタバコをとり、先端をヒイロお姉ちゃんへ向ける。

「私ですか?」

「とぼけんな」

 その瞬間、右腰から何かを右手で引き抜き、くるくると回転させながらお姉ちゃんに向けた。

「——っ!」

 クラッシックな黒の回転式拳銃リボルバーだった。

 もう一度、火の点いていないタバコを咥える。

 それ意味あるのかな……。

「袴、太刀、黒髪。間違いねぇ」

「うーん……」

 お姉ちゃんは右手の人差し指と親指を立てて顎に置き、男性の顔をじろじろと見る。

「ねぇ、お姉ちゃん、拳銃向けられてるんだよ。そんな悠長にしてていいの?」

「だって、身に覚えがないんだもん。悪いことしてないのに拳銃向けられても……」

 今朝無断で僕の部屋に入ってきたじゃん。

 まさかその時のことを誰かが対人狩人さんに通報したとか。

「えっと、どなたですか? いきなり銃なんか引き抜いて」

 全身真っ黒の男性は煙もないのに、ふーっと、息を吐きながら、

「狩人としてお前を標的にする」

 と、応えた。


 ほ、ほんとに誰かが通報した……?


——————————


ラン   US〈相手の攻撃スキルの命中率が少し減少〉

     SS〈?〉……?


ヒイロ  US〈相手と対峙した時、防御力がほんの少し上昇〉

     TS〈リフレクション〉……ジャストタイミングで使用することで、近接攻撃を無効にし、二倍の威力にして相手に返す。

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