第16話 私の娘はまだ父親を知らない

「……おじさん、が?」


 私が告解したことの意味が分からない。


 そんな当惑した表情をみせる。


 けれど美海は理解できないほど愚かな娘ではない。


 受け入れたくないのだろう。


 こんな残酷な現実など。


「……嘘」


「そうだったらどれほど良かったか。私だってここに来て、君を見つけて初めて知ったんだ……!」


 ずっと娘を助けるつもりだった。


 顔も知らない娘だったけれど、必死になって助けようとした。


 傷ついてほしくなくて、私自身のことより優先順位は上だった。


 だけどまさか、一番の傷を私が負わせてしまうことになるなんて……なんて皮肉なのだろう。


「君が……娘だったなんて……。美海だったなんて……」


 浴槽に拳を振り下ろし、やるせない気持ちをぶつける。


 強く打ちつけた手がジンと痺れるが、不思議と痛みは感じなかった。


「すまない……すまない……!! 私は……許されないことをしてしま――」


 あたたかい。


 柔らかくて、なによりも安らぐぬくもりが私を包む。


 顔を濡らしていた涙が、真っ白くて無垢な布に吸い込まれて……消えた。


「分かってます」


「なに、が?」


 きゅっと、私の後頭部で美海の両手が結ばれる。


「自己紹介なんですよね。約束していた」


 そういえば、そんなことを約束していたかもしれない。


 たしか、内容は……。


「確かに私は優しいお父さんが欲しかったですから、いい自己紹介かもしれません」


 でも、という言葉と同時に、美海は私を解放した。


「楽しくない嘘は減点です」


 なぜだろう。


 美海に悲観する様子は一切見られない。


 それどころかうっすらと微笑みすら浮かべている。


「嘘じゃないことは君にも分かるはずだっ。そうじゃないと私がここに居る理由が――」


 二度目になる無言の否定。


 事実だと分かっているはずなのに……キス。


 もちろん、親子で交わされる軽い頬にする類のものではない。


 男女の間で行われる愛情の証だ。


「……嘘ですよ」


「…………」


 真実を嘘で覆われてしまう。


 真実だと証明するための物は何もなく、嘘だと定義できる証拠もない。


 全てが曖昧な状態では、望まれた方にこそ価値があった。


「今は、まだ……んっ」


 私はまだ父親ではなく、ただのおじさん。


 美海は娘ではなく、ただの少女。


 だからこうしてキスができる。


 愛し合える。


 慰め合っても、構わない。


「もっと……はむ……ふっ……はふぅっ……」


 美海の舌が私の舌に重ねられる。


 ざらざらとした舌の表皮が私の口蓋を舐りあげていく。


 甘露の如き美海の唾液が注がれ、私の唾液と混じり合う。


 ただひたすらに美海が私を求め、私が美海を求めた。


※こちらはカクヨム規制版になるため、一部表現を変更してあります

この後は18歳未満は御断りの描写が行われますので、未公開となります

後ほどどこか別のサイトで公開を考えておりますのでご了承ください

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