会話

「それじゃあ、またお邪魔するかもしれないです!」

「いいのよ!全然!いつでもどんなときでも来ていいからね!」

と上機嫌で、僕の真正面にいる母と陽菜。そして、僕の横にいる高田先輩。

「それじゃあ、優喜、ちゃんと高田さんを送るのよ」

「…(いうて、ほぼ隣じゃねぇか)」

「ん?なんか言った?兄貴」

「いえ、何も」

「ほぼ隣の家だから、送る必要はない。なんてことを考えてないよね?兄貴」

「…」

なんで、こいつ聞こえてんだよ。地獄耳か。

「沈黙は同意と同じだよ。兄貴」

「…わかったよ」

「よろしい!それじゃあ、みー姉、またね!」

「うん!じゃあ、また来るね!」

「ばいばい!」

と手を振る二人をこちらも手を振りながら後ろ向きに帰る高田先輩。

「後ろ向いてると、転びますよ」

「ふふーん、別にゆーくんとは違うから、私は転びませんよーだ」

と振り返り、普通に歩く先輩。

「…それって貶してます?」

「ううん、自慢してる」

「そうですか」

と、沈黙になる。

別に高田先輩を見る必要もないから、僕は黙々と先輩の前を歩いていく。

「ちょ、ちょっと」

「なんですか?」

先輩が話しかけてくる。なんで話しかけるんだよ。

こんなやつほっとけばいいのに。

「なんで、ゆーくんは私を避けてるの?」

「…別に避けてるわけじゃないですよ」

「嘘」

「嘘なんてわからないでしょ」

「だって、ゆーくん、私とひーちゃんが話してても、別に関係ないって感じで、自分はどっか行ってたでしょ」

「別に、それは自分にはやらなきゃいけなかったことがあったので、今日はそれをやってただけです」

「じゃあ、なんで今私の横で歩いてくれないの?」

「…それは別に、勘違いされたくないので」

と、先輩の家にたどり着く。別れの時間だ。

「それじゃあ、僕はここまでなので」

と、振り返り、別れを先輩に告げる。しかし、その先輩の顔を見ると、そのまま帰るには憚られるような表情をし、こう言い放った。

「ゆーくん、ゆーくんに色々とあったのは私が一番わかってる。だからね、ゆーくんに冷たくされると、私悲しいかな」

と彼女の瞳からはなにかがこぼれたように見えた。

「でも、なんか理由があるなら、ゆーくん。私にも話してほしい。なんで友達がいないのかとか」

「なんで、それは知ってるんすか」

「それはゆーくん。ゆーくんの話は学校中でよく聞くようになったよ。わたしのせいなんだけどね」

「…それは話しかけられたからってことですか」

「それはゆーくんでもわかるでしょ」

「はぁ」

「だから、ゆーくんが話してくれるまで、私はぜっっっっっっったいに諦めないからね!」

と笑う彼女。その笑顔から僕は目を離すことはできなかった。

「じゃ!また明日ね!」

と手を振りながら、家に入っていく彼女。

僕はどうすれば明日から彼女から避けられるのか。練らなければならないと天を仰いだ。

その頬を初夏とも言い難い5月のまだちょっぴり冷たい風が吹き抜けた。

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