第21話 如雨露の真実
「如雨露が力を発揮するのは二、三日後。僕はいつも如雨露に雨を降らせるように魔法をかけた後、すぐに村を去っていたんだ。ウーファイアにそうしろと言われていてね。だから、知らなかったんだ。だけどあるとき、こういう噂や新聞記事を見て知った。『如雨露を持った者が、嵐を呼んでいる』と」
「……」
「それでようやく僕がやっていることは、人々にとって災いだったことに気づいた」
酷く冷たい声だった。自分がやってきたことが人助けではなく、人を困らせることだったと知ったとき、彼はどんなに苦しい気持ちになったのだろうか。
タカテラスはまるで自分の事のように苦しく、気づかぬうちに膝に置いていた手をぎゅっと握りしめていた。
「僕は、もう二度とこんなことをしたくなくて、ウーファイアを探し始めた。手を切りたかったのと、どうしてこんなことをしたんだと、そう問い詰めるために……。だけど彼女とは会えず、その内に如雨露が暴走した」
「え?」
ヒナタは両ひざに両肘を載せ、前かがみの姿勢になると、じっと窓の外を見つめる。そこには何もいないし、暗闇で見えないはずなのに、まるで過去の出来事が見えているかのように、眉を寄せ苦しい表情を浮かべた。
「魔法具は、一定の力を蓄えると制御が利かなくなるみたいで、使わなかったことで、如雨露に蓄えられた力は器である如雨露を破壊しようとしていたんだ」
「……」
「でも実際にそうなってしまったら、何が起こるか分からない。だから僕は自分の魔法で、必死に抑え込んだ。でも、ダメだった。僕にもっと魔法の知識があれば違ったのかもしれないけれど、師匠だったはずのウーファイアから教わったことは、ほとんど破壊や攻撃的なものばかりだったから、どうにも出来なくて……結局僕は如雨露を使うことにしたんだ。『器』が壊れてしまったらもっと厄介なことになるだろうと思ったから、最悪な選択肢の中でもマシな方を選んだつもりだった」
「それで、どうなったの?」
「力を蓄えていた如雨露は、嵐を呼び寄せた。それも今までで一番と思えるほどの大きなものだった。当然僕も抗うことはできず、濁流に飲み込まれた」
「濁流に? それはとても苦しかっただろうね……」
タカテラスが呟くと、ヒナタは目を閉じた。
「うん。でも、僕の苦しみなんて、他の人から比べたら大したことないよ。だって、これを呼び寄せたのは僕なんだから」
「……ヒナタ」
ヒナタはゆっくりと瞼を開けると、俯き、両の手の指を絡ませて、ぎゅっと握った。
「僕は当然の報いだと思った。息が出来ずに苦しみ、水の強い流れで手足が引きちぎられて死ぬのだ、と。そう諦めかけたとき、僕を助けてくれた人がいた。その人は魔法使いで、傷を手当てしてくれたあと、如雨露に掛けられていた災いを引き寄せてしまう魔法を解き、必要なときにちゃんと雨を降らせてくれる魔法に書き換えてくれたんだ」
「いい人だね」
タカテラスのほっとした呟きに、ヒナタは力なく笑う。
「……そうだね。とてもいい人だった」
「ヒナタ?」
ヒナタは横に首を振り、「大丈夫」というと言葉を続けた。
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