第20話 ヒナタと最強の魔法使い

「託された?」

 眉を寄せるタカテラスに、ヒナタが説明してくれる。


「この如雨露はね、魔法道具の一種なんだ。非魔法使い……つまりタカテラスのような人たちに渡ると暴走するからと、管理と運用をウーファイアに任されたんだ。それも僕が死ぬまで、ね」

「死ぬまでって……。それと君の成長を遅くすることにどんな意味が?」


 ヒナタは、少しの間口を噤んで何かを考えている風だったが、やがて口を開いた。


「僕には分からない。だけど、都合がいいからだと思う。彼女は意味のないことはしないから」

「最強の魔法使いが考えることは分からないね」

 肩を竦めて言うタカテラスに、ヒナタはふっと笑って頷く。

「そうだね」

「なあ、君がウーファイアに如雨露を託されたのはいつ頃の話?」

「今から40年くらい前の話だよ。僕は10歳くらいだったと思う」


 タカテラスは眉をひそめる。

「10歳? そんな年齢で何故?」

「僕は魔法使い一家の末裔だったんだけど、学校に通えるお金がなくて……。そんなときに、僕はウーファイアと出会った。彼女からは魔法や文字について学んで、教えてもらったことを実践すると魔法の素質がいいと褒めてくれた。それが嬉しくて彼女の弟子になって、如雨露を受け取ったんだ」

「家族は? ご両親は納得したの?」


 タカテラスの問いに、ヒナタは困ったように笑う。


「納得も何も、喜んでいたよ。そのときすでにウーファイアは、大陸の西側でも、魔法使いの中でも才能のある者として知られていたからね。有名な魔法使いに認められたって言うんで、僕のことを誇らしく思っていたよ。それに学校に通わせてやれない負い目もあったみたいだから、快く送り出してくれた」

「ヒナタは、君の家族とは会っているの?」


 ヒナタは「いいや」と淡々とした口調で言った。


「ウーファイアの弟子になってからはそれっきり。一度も会っていないよ」

「……」

 タカテラスが無言になったので、ヒナタは場を明るくしようとしたのか、ふっと笑う。

「もしかして哀れに思った?」

 ヒナタに尋ねられ、タカテラスは複雑な表情を浮かべた。

「そうじゃないよ。俺も村がそのものが貧しいから、学校には行っていないんだ。だから同じだと思った。だけど、ヒナタには才能があって、それを……」

「それを?」


 続きを促され、タカテラス絞り出すように言った。

「利用されたんだって思ったら、腹が立っただけだよ……」

 するとヒナタは柔らかな表情を浮かべる。

「やっぱり君は、優しいね。ありがとう」

「そんなことはないと思うけど……」


 ヒナタはそれ以上は言わずに、如雨露の話に戻した。

 

「ウーファイアに任された管理の仕事は、如雨露の力を制御すること。運用の仕事は、タカテラスの村のように水不足で困っているところの村に雨を降らせることを目的としていた」

「じゃあ、人助けだ」

 だが、ヒナタは眉をひそめ苦しそうな顔をする。

「でも、違ったんだ」

「……」

「この如雨露で降らす雨は暴風雨を呼び寄せた。人がどうにもならない強力な嵐だ。そのせいでいくつ村が流されたか分からない。でも、僕はずっとそれを知らなかった」


 タカテラスはハッとした。新聞に「如雨露を持った者」は、やはりヒナタだったということだ。

 しかし、彼は気づかぬふりをして、「それは……どうして?」と尋ねた。

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