シャツ一枚の先輩と二人きり

一旦家へ戻った。

当然、親父がいるので遭遇してしまった。


「愁、なんで帰ってきた――って、その子はどうした! びしょ濡れじゃないか……まさか、誘拐!?」


「なにを誤解してる! 先輩だ。さっきトラックにやられたんだ」

「なんだ、そうだったのか。そうか、例の彼女か。……まあいい、それより風呂へ入った方がいいだろう。風邪を引いてしまうぞ」


「そのつもりだ」


先輩を家に上がらせ、風呂へ案内した。



「……ごめんね」

「いえいえ、先輩が困っているんです。助けるのは当然ですよ」

「ありがとう、愁くん。ていうか……男の子の家に上がるの初めて」

「そ、それは奇遇ですね。俺も女の子を家に招くのは人生初です」

「……良かった」

「え……? 先輩それって」

「な、なんでもないよ」



なんか先輩、慌てているような。……まあいいか。


「ここがバスルームです。どうぞ使ってください」

「助かるよ。お風呂借りるね」

「は、はい」


先輩は顔を赤くしながら脱衣所へ。

俺は部屋で待っていようとしたが、先輩が慌てて出てきた。



「愁くん、そういえば……!」

「ど、どうしたんです、先輩! って、し、下着姿じゃないっすか!!」



戸を開け、顔を出す先輩は刺激の強すぎる格好になっていた。こ、これは直視できない。どこを見ればいいんだ!!


「服とか乾かしたいんだけど……」

「あ……そっか。じゃ、じゃあ全部脱いでいただいて……俺が干して――って、なにを言っているんだ俺は!! 先輩の下着とか握りしめたらヘンタイですよね!?」


「…………うぅ。それしか方法がないよね」


死にそうなほど恥ずかしがる先輩。

この場には俺しかいないし、そうするしかないよな。


いやいや、よく考えろ俺。


よ~~~く考えれば、母さんに頼めばいいじゃないか!



「安心してください、先輩。母さんに頼みますから」

「そ、そっか! その手があったね。愁くんの母さん、在宅中?」

「はい、いますよ。いつもお店の手伝いしていますし。呼んでおくので、先輩は早くお風呂へ」

「うん、ありがと」



……ふぅ、なんとかなりそうだ。



* * *



家中を走り回り、母さんを探したが……いなかった。仕方ないのでお店の開店準備をしている親父に聞いた。


「親父、母さんは?」

「母さんなら朝早くから出掛けたが」

「え……マジ?」

「ああ、夕方まで帰ってこない」


「夕方まで……!? 先輩の服をどう乾かせばいいんだ!!」


頭を抱えていると、親父は冷静にこう言った。


「まさか、彼女の服に困っているのか。それならお前のシャツを貸してやればいいだろ」

「そ、そっか! その手があったか!」



俺は自室へ戻った。

清潔なシャツを選び、バスルームへ。



「先輩、いいですか」

「愁くん! うん、待ってた。どうだった?」

「実は……母さんが出掛けているみたいで。それで、俺のシャツを持ってきました。しばらくシャツ一枚で我慢してください」


「そっかぁ、仕方ないよね。うん、自然乾燥にするよ。それまで愁くんのシャツを借りるね」



先輩が戸をギリギリまで開けた。

俺は、なるべく見ないようシャツとバスタオルを隙間へ送り込んだ。


……ふぅ、なんとか渡せた。


安堵していると、戸が開いて先輩が出てきた。


「…………せ、せんぱい」

「……愁くん、その……あんまり見ないで」


絵柄付きの白いシャツ一枚姿の先輩は、卒倒レベルの可愛さを誇っていた。手足を大胆に出しているし、なんだかいつも以上にエロい。


「か、可愛いです。先輩」

「う……嬉しいけど、恥ずかしい……」


「先輩、写真撮っていいですか!?」


「ダ、ダメ! 撮ったら怒るからね」

「冗談です。それより、俺の部屋に案内しますよ」

「愁くんの部屋か。うん、入ってみたい」


こんな形で先輩を俺の部屋に招くことになるとはな。しかも、シャツ一枚姿の先輩を。信じられん……奇跡だ。


高鳴りまくる心臓を押さえ、俺は先輩を連れて二階の部屋へ。


「ここです。どうぞ」

「お邪魔します……」


先輩、動きがぎこちないな。

きっと緊張しているんだろうな。俺もだけど。


「至って普通の部屋ですけどね」

「ううん、良い部屋だね。ベッド広いね、座っていい?」


「大歓迎ですよ。どうぞ、遠慮なく」


俺のベッドに腰掛ける先輩。

ちょこんとしていて可愛すぎる。


いや、ジロジロ見ていたら怒られるな。

そうだ、飲み物くらい出さないとな。俺の部屋には小型冷蔵庫がある。そこからお茶のペットボトルを取り出し、先輩に渡した。


「ありがとう、愁くん。えっと……部屋に冷蔵庫あるんだ」

「取りに行くのが面倒くさくて、設置してあるんです」


俺は冷静になるべく、ペットボトルに口をつけた。その時、先輩はこう言った。



「愁くん、わたし……今、下着つけてない」

「ブッ――――――!!!!!!!!!」



な、な、な、な、なんだってー!!!

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