◆旅行⑥◆

◆◆◆◆◆

階下[した]に降りる為に乗り込んだエレベーターの中で美桜が口を開いた。

「ねぇ、蓮さん」

「ん?」

「風船を膨らませるのって得意?」

「風船?」

「うん、風船」

美桜は何の前触れもなく突拍子もない質問をよく投げかけてくる。

付き合い始めてすぐの頃は驚きもしたし、なんでこのタイミングでその質問なんだ?と頭を捻った事も多々ある。

でも、それは俺には突拍子もない質問に思えても、美桜の頭の中には、その質問を俺に投げかけるまでの経緯がちゃんとあるらしい。

だから、そういう時は質問に答えるだけじゃなくて、なんでその質問をしたのかを聞き出す必要がある。

「風船か……最近は膨らませてねぇーから分かんねぇーけど。なんだ?風船が欲しいのか?」

「……はい?」

「あ?」

「……蓮さん……」

「なんだ?」

「私は、もう高校生なんだけど……」

「あぁ、知ってる」

「高校生の私が風船なんて欲しがったら可笑しくない?」

「そうか?」

「そうだよ!!もう!!いつまでもガキ扱いしないで!!」

頬を膨らませて怒りを露わにしている美桜。

どうやら俺はまた美桜の逆鱗に触れちまったらしい。

「いや……別にガキ扱いはしてねぇーけど……」

「……」

必死で言い訳をする俺を美桜は横目で睨んでて……。

「でも、この前繁華街で遊んでた時新しくオープンしたショップの店員に風船貰って喜んでたじゃねぇーか」

「……」

「……!!」

……しまった。

フォローするつもりが余計に怒りを煽ってしまった……。

一層、膨らんだ美桜の頬を見て、俺は全身から血の気が引いた。

……やべぇ……。

ここは、急いで会話の流れを変えねぇーと……。

「と……ところでなんで風船なんだ?」

「蓮さんはこれを膨らませられるかなと思って……」

そう言って美桜が視線を落としたのは、俺と繋いでいる反対の手に握りしめられている、まだ空気の入っていない浮き輪だった。

……。

……いや、美桜……。

ちょっと待て!!

仮に俺が風船を膨らませるのが得意だったとしても……。

その浮き輪を膨らませるのはどう考えても無理じゃねぇーか?

もし、この浮き輪が、くるみが持っていたやつみたいに子供用の小さな浮き輪だったら、俺も自信満々で『任せとけ』って言えるけど

流石にこれは無理だ。

美桜が持っているのは、泳げない美桜を『今日は大丈夫!!』と自信満々で言わせただけあってかなりデカい。

頑張れば大人でも2人は入れそうなデカさだ。

このデカさの浮き輪を膨らませたら間違いなく俺は酸欠になっちまう……。

「……さすがにそれは俺にも無理だ」

「えっ?蓮さんにも無理な事があるの?」

驚いた表情を浮かべた美桜。

……おい、おい……。

こいつ、俺を人間だと思ってねぇーんじゃねぇーだろうな?

この浮き輪を俺が難なく膨らませる事が出来たら、テレビのビックリ人間特集に引っ張りダコじゃねぇーか。

「……心配しなくても、プールサイドに浮き輪用のコンプレッサーがある」

「……コンペ?なに、それ?」

「……コンペじゃなくてコンプレッサーだ。お前は何の競技会を開くつもりだ?」

「コン……なんとかってなに?」

「だから、コンプレッサーだって……。浮き輪とかビーチボールに空気を入れる道具だ」

「へぇ~それがあったら浮き輪が膨らむの?」

「あぁ」

「じゃあ、この浮き輪も膨らませられるの?」

「もちろん」

「良かった。蓮さんが無理って言うからお父さんに頼まないといけないかと思っ。」

「親父に?」

「うん」

「頼むからそれは止めてやってくれ」

「なんで?」

「親父はお前の頼みなら絶対に断れない。出来もしねぇーのにカッコつけて引き受けるに決まってる」

「そうなの?」

「あぁ。んで、無理して酸欠になってぶっ倒れるんだ」

「えっ!?」

「親父はもうジジィだから勘弁してやってくれ」

「わ……分かった」

美桜は顔をひきつらせて頷いた。

これは、美桜を驚かそうとしている訳でも、冗談を言っている訳でもなく、俺の頭の中に親父が嬉しそうに巨大な浮き輪を膨らます姿が鮮明に浮かんだ。

親父は美桜にお願いなんてされたら絶対に断らないはずだ。

鼻の下を伸ばして嬉しそうに引き受けるに決まっている。

どんなに俺や周りの人間が止めても耳を貸そうとはしない。

……まぁ、綾さんが止めたら親父も渋々諦めるかもしれねぇーけど

綾さんは親父を止めたりはしねぇーはずだ。

なんと言っても美桜の頼みなんだから、親父を止めるはずがない。

下手をしたら親父と一緒になって浮き輪を膨らまそうとするかもしれねぇ。

組長と姐さんが必死で浮き輪を膨らまそうとしてたら、下の人間も落ち着いて遊んだりしてらんねぇーだろ。

それこそ、組をあげての一大事になっちまう。

たかが浮き輪1つで大騒ぎする組ってどう考えてもダメだろ?

ここはコンプレッサーに頑張ってもらうしかねぇーな。

「階下に着いたら俺が空気を入れてやる」

「ありがとう」

「あぁ」

美桜が嬉しそうな笑みを浮かべた時エレベーターが止まり、ゆっくりとドアが開いた。

俺は美桜の手を引いてエレベーターを降りた。

いつもは手を繋いで隣を歩く美桜がなぜか俺の半歩後ろを歩いている。

不思議に思った俺は歩きながら顔だけを振り返ってみた。

ビーチサンダルを履いた美桜の歩き方はどことなくぎこちなかった。

「どうした?足が痛いのか?」

「……痛くはないけど……」

「……?」

「なんかこれを履いたら歩き難い」

そう言って美桜は足下を指差した。

「ビーチサンダルか?」

「うん」

……そう言えば、去年ケン達と海に行った時も歩き難いとか言って裸足で砂浜を歩いてたな……。

ペタペタと音を響かせながら歩いている美桜を見ながら俺は不思議に思った。

普段は、踵の高いサンダルを履いて器用に歩いてるのに……。

あのサンダルよりビーチサンダルの方が全然歩きやすそうな気がするけど……。

「少しだけ我慢出来るか?」

「……?」

「あとで歩きやすいヤツを買いに連れていってやるから」

「えっ!?い……いいよ!!もうすぐしたら慣れるから!!」

「慣れる?」

「うん、履き慣れてないから歩き難いだけなの。もう少ししたら慣れると思うから大丈夫」

「そうか?」

「うん」

……“慣れ”か……

「なぁ、美桜」

「うん?」

「お前、いつも踵[かかと]の高いサンダルとか履いてるだろ?」

「うん」

「あれも、最初は歩き難かったか?」

「もちろん。慣れるまでは何度も転けちゃったし、グリってなって足首を捻挫したりもしたんだよ」

「は?捻挫!?」

「うん。しばらくは痛くて普通に歩くのも一苦労だったんだから」

「……なんでだ?」

「えっ?」

「なんでケガまでしてあれを履くんだ?」

「可愛いから」

「は?」

「可愛いから履くの」

「でも、ケガしたら痛ぇだろ?」

「うん、痛いよ。でも……」

「……?」

「ケガの痛みは我慢できるけど可愛くない靴を履くのは我慢できない」

「……」

……分からない……。

どう考えても痛みの方が我慢できねぇーだろ?

美桜のこういうところが俺は分からない。

「女の子は大変なんだよ」

「あ?」

「いつも可愛くいるためにはケガくらい我慢しないといけないんだから」

「そうなのか?」

「そうだよ。いろいろ大変なんだから」

「例えば?」

「う~ん……あっ!!ほら!!繁華街に髪の毛をクルクルって巻いてる子がいるでしょ?」

「あぁ」

「あれはヘアーアイロンっていう熱いヤツで巻くんだけど慣れるまでは首筋とか顔に当たって『熱っ!!』ってなるんだよ」

「……」

「まつげを長くみせる“つけまつげ”だって慣れるまでは接着剤が目に入ってかなり痛いんだから」

「は?あれ接着剤でつけてんのか?」

「そうだよ」

「……それは大変だな……」

「でしょ?」

「あぁ、別にそんなに頑張らなくてもいい気がするけど……」

「ダメだよ!!せっかく女の子に生まれたんだからいつも可愛くしとかないと!!」

「そ……そうか?」

「うん!!」

……なんで美桜は鼻の穴を膨らませて力説してんだ?

「……てかね……」

「……?」

「高いヒールの靴を履くと視界が変わるんだよ」

「視界?」

「うん。もし踵の低い靴を履いて人混みを歩くと人の背中しか見えないけど、高いヒールの靴を履くと普段見えない景色が見えるの」

「なるほどな」

美桜が言う女の気持ちはいまいち分かんねぇーけど、それは俺にも理解できた。

「だから、私は踵の高い靴を履くんだよ」

「そうか」

俺はにっこりと微笑んだ美桜の頭を撫でた。

ビーチサンダルを履いた美桜の頭はいつもより低いところにあった。

『姐さん』

背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには心配そうな表情のマサトとヤマトがいた。

「あれ?マサトさんと……ヤマトさん……って名前だっけ?」

「あぁ」

「どうしたんだろ?何かあったのかな?」

「心配してんだろ」

「心配?なんの?」

「お前の体調」

「えっ!? 私!?」

「あぁ。お前が倒れてからずっと心配してた」

「そうなんだ。マサトさんとヤマトさんにも心配を掛けちゃったんだ」

「もう大丈夫ってお前の口から言ってやれ。そうしたら、あいつらも安心する」

「うん!!そうだね」

美桜は大きく頷き俺と繋いでいた手を離すと、パタパタと音を響かせて、マサト達に駆け寄った。

マサトの視線が近付く美桜を通り越し、ゆっくりと歩く俺へと向けられた。

マサトの眼は俺に問い掛けていた。

それに気付いた俺は小さく頷いた。

その瞬間、マサトの眼が安心したように細められた。

小走り気味にマサト達に近付いた美桜に

「大丈夫ですか?」

ヤマトが心配そうに尋ねた。

「はい、もう大丈夫です。ご心配をお掛けしてすみません」

深々と頭を下げた美桜にマサトと同じく安心した表情を浮かべたヤマト。

……でも、それは一瞬の事で何かに気付いたらしいヤマトは顔を引きつらせた。

『ね……姐さん!!どうか頭を上げてください!!』

焦った声を出したヤマトに

「へっ?」

美桜はすっとぼけた声を発し顔を上げた。

焦った表情のヤマトの顔を不思議そうな顔でまじまじと見上げる美桜。

数秒間、動きを止めてお互いの顔を見つめていた2人。

先に視線を逸らしたのはヤマトだった。

困った表情で俺に視線を向けたヤマトは明らかに助けを求めていた。

……そりゃあ、そうだろ……。

美桜は全く気付いてねぇーみてぇだけど、誰だってそんなに見つめられたら困るに決まってる。

「美桜」

「えっ?」

美桜の隣で足を止めた俺は、その小さな手を捕まえた。

「……?」

不思議そうな表情を浮かべながらも、美桜は俺の手をギュッと握り返した。

そんな俺と美桜を見て、マサトとヤマトは顔を見合わせて苦笑している。

ロビーにある大きな幾つもの窓から降り注ぐ午後の日差しに包まれて和やかな時間が流れる。

……こんな時間も悪くねぇーな……。

……なんて、ガラにもねぇー事を考えていると

「あっ!!」

突然、大きな声を出した美桜に俺はもちろんマサトやヤマトも視線を向けた。

「美桜、どうした?」

「マサトさん!!」

俺の質問をシカトして美桜が見上げたのはマサトだった。

「は……はい? どうしました?」

突然名前を絶叫されたマサトは当然のごとく驚いていた。

「大丈夫ですか!?」

「えっ!?」

いつもは鋭い瞳を丸くしているマサト。

マサトの気持ちはよく分かる。

ついさっきぶっ倒れたのは美桜で

心配されるべき美桜に『大丈夫ですか!?』なんて心配されてしまったマサトの戸惑いは計り知れない。

その場にいた全員が驚いた表情で美桜を見つめていた。

一方、美桜は俺達の視線を気にする様子も無く、真剣な表情でマサトの顔を見上げている。

美桜がマサトの心配をするのは、何か理由があるはず……。

そう思った俺は美桜に尋ねた。

「美桜」

「なぁに?蓮さん」

「マサトがどうかしたのか?」

「どうかって・・さっき綾さんに叩かれたじゃない」

そう言って美桜は自分の頬を指差した。

……なるほど……。

どうやら、美桜は綾さんに殴られたマサトの頬を心配していたらしい。

「全然、大丈夫ですよ」

マサトが穏やかな笑みを浮かべた。

「本当に?」

それでもまだ心配そうな美桜。

「はい、本当に大丈夫です。それに……」

「……?」

「綾姐さんは、痛くないようにちゃんと手加減をしてくれてましたから」

「手加減?」

「はい」

「でも、すごい音が……」

「あれはそういう叩き方なんです

「……?」

マサトの言葉が理解できないらしい美桜は、首を傾げて俺の顔を見上げた。

その瞳は明らかに『通訳をして!!』って俺に訴えていた。

「綾さんはマサトを本気で殴った訳じゃねぇーよ」

「えっ!?あれって本気じゃなかったの!?」

美桜は驚いた声をあげた。

そんな美桜を見て、マサトとヤマトは苦笑していた。

「あぁ、あれは本気で殴った訳じゃない。音は響いたけどそんなに痛くはねぇーよ」

「で……でも、あの状況で手加減なんて出来ないんじゃ……」

「そんな事ねぇーよ。綾さんはケンカ慣れしてるんだ。あんな状況なんて何度も経験してる」

「そ……そうなの?」

「あぁ、もし綾さんが本気でブチキレたらあんなもんじゃ済まねぇーよ」

「……!?」

「……」

「……もし、綾さんが本気でキレたらどうなるの?」

「ん?知りたいか?」

「……ちょっとだけ」

「もし、綾さんが本気でキレたらマサトの頬は今頃、間違いなく腫れあがってるだろーな」

「……!?」

「それに止めに入った奴が何人かプールに蹴り飛ばされる」

「……!!」

「被害者続出で救急車が出動……」

「れ……蓮さん!!」

顔を引きつらせた美桜が俺の腕を掴んだ。

「ん?」

「もう充分、分かったから!!」

「そうか?」

「うん!!ありがとう!!」

何度も頷く美桜の表情はもうそれ以上は聞きたくないって感じで……。どことなく引いているようにも見えた。

……まぁ、美桜がそう思うのも無理はない。

俺達にとってケンカや殴り合いは昔から日常茶飯事だけど

それが美桜も同じかと言ったらそんな事はない。

美桜にとってケンカや殴り合いは全て“暴力”として認識され

“暴力=怖い事”

美桜はそう思っている。

……そして、暴力という言葉から美桜が真っ先に連想するのは……。

実の母親の事だ。

出逢った当初に比べたら美桜が母親から受けた暴力の記憶に怯える事は少なくなった。

それでも、美桜の心の傷が完全に癒された訳じゃない。

でも美桜は必死で前へ進もうとしている。

こうして、笑顔を見せる事が多くなったのも

確実に美桜が前に進んでいる証拠だ。

美桜はどんなに俺との付き合いが長くなっても

きっとこの世界に染まる事はない。

多少、慣れる事はあっても染まりはしない。

それは、一方的な暴力を受けた美桜がその痛みを知っているから……。

「……蓮さん……」

「……」

「蓮さん?」

「……」

「蓮さんってば!!」

「……えっ?」

「どうしたの?ボンヤリして……もしかして、私の顔に何か付いてる!?」

慌てたように自分の顔を両手で覆った美桜に俺は苦笑した。

「心配しなくてもタヌキにはなってねぇーよ」

「……!!」

両手で顔を隠していても美桜の動揺は充分伝わって来た。

「……タヌキ?」

不思議そうな表情のマサトとヤマト。

それもそのはず“タヌキ”の一言でその意味を理解出来るのは俺と美桜だけ。

マサトとヤマトは分からなくて当然だった。

動揺を隠せない美桜と不思議そうなマサトとヤマト。

そんな中、俺だけが苦笑していた。

「……そう言えば……」

その場にいるはずの2人の姿がない事に気付いた俺はマサトとヤマトに視線を向けた。

「あの2人はどうした?」

マサトとヤマトは俺に視線を向けた後、顔を見合わせた。

そして、視線をロビーのソファに向けた。

「さっきから楽しそうに話し込んでます」

失笑気味のヤマトと

「女同士の会話って途切れる事がないんですよね」

苦笑気味のマサト。

2人の視線を追うようにロビーのソファに視線を向けると、そこには女が2人座り楽しそうに談笑していた。

「2人?誰?」

不思議そうな声を出した美桜が爪先立ちで俺達が向ける視線の先を覗き込んだ。

「美桜」

「うん?」

「お前も会いたかったんだよな?」

「……会いたい?誰に?」

「マサトの嫁さんだ」

「……マサトさんの……」

ブツブツと何かを考えるように呟いた美桜が

「あぁ!!そうだった!!すっかり忘れてたけど……マサトさん!!」

大きな声を上げマサトに視線を向けた。

その表情は真剣そのもので、真剣を通り越して怒っているようにも見える表情だった。

美桜のそんな表情にマサトが驚かないはずもなく、後退りをしたマサトは

「ど……どうかしましたか?」

動揺した声を発した。

その表情は『俺、なんかやらかしたか?』って感じが滲み出ていた。「結婚してるって本当ですか!?」

「はい?」

「マサトさんが結婚してるって本当なんですか!?」

じりじりとマサトを追い詰めるように近付く美桜とそんな美桜から逃れるように後退りをするマサト。

状況が全く理解出来ていないらしいヤマトだけが目を丸くして

忙しそうに美桜とマサトと俺を交互に眺めていた。

「悪ぃ、マサト」

「は?」

「つい、口を滑らせちまった」

「口を滑らせた?」

「あぁ、こいつは知らなかったんだ。お前が結婚してる事を……」

「……なるほど……」

ようやく美桜の質問の意味を理解したらしいマサトは納得したように頷いた。

それから、少し照れたような表情で美桜に視線を向け

「はい、俺は結婚しています。話さなくてすみませんでした」

美桜に向かって深々と頭を下げた。

……マサトはこういう奴だ。

別に美桜に話していなかったからと言って頭を下げる必要なんてねぇーのに。

律儀って言うか……。

礼儀を重んじると言うか……。

それを当たり前のようにさり気なく出来るマサトを俺は尊敬する。

俺にはマサトのそんなところはとてもじゃねぇーけど真似出来ねぇ。これは、マサトがこの世界に入って身に付けたものじゃなくて

元々持っていたもの。

マサトは相手が

男だろうが

女だろうが

年上だろうが

年下だろうが

相手が自分より強かろうが

逆に弱かろうが

そんな先入観なんて関係なく

自分が認めた相手には、どこまでも忠義を示そうとする。

まるで侍のようなマサトは組でも下の奴らに尊敬されていたりする。マサトの歳で組の幹部になる事は異例ではあるけど

誰1人として、反対する奴はいない。

それは組に属する人間全員がマサトという人間を認めている証拠だ。

「ひぃっ!!や……止めて下さい!!マサトさん!!」

深々と頭を下げるマサトに美桜は奇妙な声を発した。

「顔を上げて下さい!!」

マサトの行動に美桜は焦っていた。

「謝らなくてもいいんです。ただ知らなかったから驚いただけで……」

しどろもどろに言葉を紡ぐ美桜が俺に視線を向けた。

その瞳は明らかに俺に助けを求めていた。

「紹介して欲しいんだよな?」

「う……うん!!」

美桜が俺の言葉に大きく頷いた。

「……あいつも会いたがってます」

ようやく顔を上げたマサトが優しい笑みを零した。

そんな、マサトの顔を見て美桜も嬉しそうに微笑んだ。

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