第10話 女子会

 美優、恵美、由里香の3人は、他の誰よりも早く駅前のカラオケに来ていた。今の時刻は16時。約束の時間は17時なので、あと1時間もある。


 3人の服装で、個々の気合の入り具合がわかる。 

 1番気合が入っているのは美優だった。上はリボンの付いたワインレッドのブラウス、下には白のロングスカート合わせており、くるぶしより少し上の黒いヒールブーツを履いている。ブラウスによって「大人の女性」という印象を受けるが、リボンが付いていることで子供っぽさもあり、うまくバランスが取れていた。

 一方恵美は、前に2つのボタンが付いたパフスリーブの白いTシャツに、ハイウェストの黒いストレートレッグパンツ、そして白ベースに黒い線の入ったスニーカーという、非常にシンプルな服装だ。

 由里香は、フリルのついた桜色のチュニックにGパン、そこに白い厚底のパンプスを合わせていて、なんとも可愛らしい服装である。


「ちょっと早く来すぎたね」


「それなー。ってか美優、うちらも来て良かったの?」


「そ、そうですよ。私たち実行委員じゃないんですよ?」


 恵美や由里香の疑問はもっとものことだ。一応、この集まりは『実行委員のお疲れ様会』として開催される。確かに実行委員ではない2人が来ていると、何か言われるかも知れない。


「うーん、別に良いでしょ? 2人とも手伝ってくれたんだし」


「美優が良くても他の人はどうなのよ」


「大丈夫大丈夫、何とかなるって。人数は多い方が楽しいんだから」


 美優は心からそう思っていた。だから、一切の悪気もなく手伝ってくれたメンバーを誘ったのだ。そして、それは冬夜も同様だった。

 冬夜は、他の実行委員に「仕事をサボっていた」と勘違いされているため、そもそもこの集まりに誘われていない。

 冬夜が嫌われていることなど、知る由もない美優は、冬夜に楽しんでもらいたい一心で彼を誘っていた。そう、誘ったのはあくまでも「美優の独断」である。


「そう言えばさ、何で矢島の連絡先は登録したの? 今まで男の連絡先なんて登録しなかったじゃん」


 唐突に恵美が、ニタニタした笑顔でそんな質問をする。ただ、「何で」と聞かれても、美優はそれに対する明確な答えを持ち合わせていない。強いて言うなら「助けてもらったから」だと、美優はそう思っていた。


「まぁ矢島って意外と良いやつだったし。あと、色々迷惑かけたから…ちゃんと謝罪とお礼くらいはしたいなって」


「ほうほう、ふーん。なるほどぉ」


 頬を少し染めながら話す美優に対して、恵美は揶揄うような視線を向けていた。それに気が付いた美優は、反撃と言わんばかりに恵美の髪型について質問をする。恵美は修学旅行の後、肩の少し上くらいまで髪を切っていた。


「そっ、そう言う恵美は何で髪切ったのよ⁉︎ まさか、矢島が言っ…」


「ち、違うから‼︎ 全然そんなんじゃないからっ」


「え? じゃあ理由は何なんですか?」


 慌てている恵美に、美優ではなく由里香が追い打ちをかけた。揶揄うわけでもなく真剣に聞いているので、恵美からすれば余計に答えずらい。


「それは…ほら。タクシーの中でも話したじゃん? 髪の毛切ろうかなって思ってるって。だから…切ったのよ。あ、暑かったし」


「なるほど…そうだったんですね。私はてっきり、矢島さんに興味があるのかと思っていました」


 と、由里香は純粋無垢な瞳で言った。

 

(由里香、それ以上はやめてあげて…)


 流石の美優もこれには同情してしまう。由里香はこれが素なので、怒るにも怒れないのだ。


「由里香。今話したこと、あいつには絶対に言うなよ? うちら3人の友情に誓って…ね?」


「え? あ、はい。わかりました!」


「よし、あいつが来たらとりあえずぶっ飛ばす」


(ごめんね、矢島)


 美優は冬夜に謝りつつ、冬夜が恵美に殴られる未来を想像して少し微笑むのだった。

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