カラオケ編

第9話 連絡先

 矢島冬夜


 エアコンのことを冷房と呼ぶようになって約1ヶ月。色々あった修学旅行が終わって夏休みに入った。しかし、待ち望んでいた夏休みは、バイト漬けで遊ぶ暇なんてない。飲食店は人手不足が常なのだ。

 


「お疲れ様です」


 今日もバイトをやり終えた俺は、帰宅するために自転車置き場へ向かった。すると、何故か俺の自転車の前に裕樹が居る。裕樹のジーパンに黒いTシャツという出立ちを見て、「黒Tは暑いだろ…」と心の中でツッコミを入れていた。と言っても、俺が着ているバイトの制服は黒一色なので、人のことを言えたもんじゃない。


「よっ」


「何してんだ?」


「LINE見てないでしょ?」


 裕樹にそう言われて携帯を開くと、一件新着メッセージが入っている。相手は「miyu」という人物だ。


「知らんやつからメッセージが来てる」


「それが西宮さん」


「…おい」


 当然ながら、俺は西宮と連絡先を交換した覚えがない。「どういうことだ?」という意を込めて睨むが、裕樹は気にする様子なく俺のスマホを指差している。


「知り合いかもってところ見てみ? ほれほれ」


 とりあえず、ニヤニヤしている裕樹に言われるがままそうしてみる。するとそこには、「えみ」という名前もあった。


「…これは?」


「石神恵美」


「くっ⁉︎ はぁ…一体どういうことだ?」


「ん? なんか急に石神さんから連絡きたんだよ。やじさんの連絡先教えろって」


 残念ながら、俺が知りたいのはそういうことでは無い。何故教えたのかということだ。


「何で教えた?」


「それはほら、メッセージ読まなきゃ」


 相変わらずの裕樹を睨みつつ、メッセージを読む。


『勝手に追加ごめん。染野くんから教えてもらった。いきなりだけど明日の17時から、駅前のカラオケ店で実行委員のお疲れ様会するんだって。もし来れそうなら連絡して』


(お疲れ様会って…、そんなに仲良く無いと思うんだけど)


 とりあえずこれで、裕樹が西宮に連絡先を教えた理由はわかった。ただ、石神さんの方はわかっていない。


「なんで石神さんにも教えたんだよ」


「いや、僕は西宮さんの連絡先知らないよ? 僕が石神さんに教えて、石神さんが西宮さんに教えたんじゃない? いやぁ…それにしても、遂にやじさんにも春が来たんだね」


 裕樹は意味のわからないことを言っているが、まさか、こんな形で連絡先が増えるとは思いもしなかった。 


「意味がわからん。これ、行かなきゃダメか?」


「来てくれないと僕がアウェイだよ」


「…裕樹は行くのか?」


「僕だって実行委員の仕事、結構手伝ってるからね」


 理由になっていないが、どうやら裕樹は行く気らしい。


(裕樹が居るなら参加してみるか…)


 そう思った俺は、早速西宮さんに参加の旨を伝えた。


(それに…)


 それに少しだけ、気になることがあったのだ。


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