6:勇者リンカは挑戦の果てに立つ
「殺す!!」
俺の挑発にシュネイルは過剰に反応した。思わず口がにやけてしまう。
いろいろ試してみたが、やはり剣のことをいじるのが一番効く。
こうした場合、ヤツの初撃は上段からの不可視の斬撃になる。ほぼ100パーセント。確実に。そら来た!
神速の、というヤツの二つ名の通り、今の俺では視認さえできない斬撃が降ってくる。
だがまあ、見えてなかろうとも関係ない。
太刀筋は毎回同じなのだ。見えなくても回避はできる。
俺は半身になって初撃を躱すと同時に前に踏み込んだ。
一歩、二歩。
間合いを詰めながら「殺すと言ったか? 俺はまだ生きてるぞ」とさらに煽ってやる。
シュネイルの殺意の表情に憤怒が上塗りされた。人間に馬鹿にされるとは思わなかったか。見かけによらず短気な魔族だ。
「舐めるなァ!!」
手首を返して斬り上げてくるのはお見通しだ。予定調和の回避に成功。続いてシュネイルは横薙ぎ一閃。身を沈めてその下をくぐる。毎度、ワンパターンだなお前は。さすがにもう覚えたよ。
「なっ!?」
自慢の神速斬撃をすべて躱されたのがよほどショックだったのか、シュネイルは動揺をあらわにした。横薙ぎが流れて僅かに隙ができる。それも知ってる。そこへ攻撃を合わせて一発当てるくらいは俺にだってできる。
速度自慢のシュネイルは動きの邪魔になるの嫌がってか、攻撃を食らうなどとは考えていないのか、なんにせよ鎧を着ていない。
だからこそ一発が致命傷になる。ぞぶり、と肉を斬り、みしり、と骨を断つ感触が手に伝わってきた。
「ば、馬鹿な……」
「馬鹿はお前だ」
手に入れたばかりの【迷いの森】の魔剣は斬りつけた相手の体力を猛烈に、莫大に吸収するという悪辣極まりない追加効果を備えている。一発当てれば確殺というわけだ。
「四天王最速のこの私が……一太刀も浴びせられずに敗れるだと……!?」
出血。膝から崩れる魔族を俺は見下ろした。
「ありえないなんてことはないさ」
お前を倒すのに俺が何周したと思ってる。これ以上お前のところで詰まってなどいられるものかよ。
俺はそれ以上の会話を打ち切るように、こちらを見上げ睨む魔族の喉元に剣を突き立てた。
「やれやれ。やっと勝てたか」
倒れ伏した魔族はすでに事切れていて、俺の呟きは誰の耳にも届かず流れて消えた。
「すごいすごい! すごいっス!!」
興奮した様子のフレディアが駆け寄ってくる。
このフレディアを見るのは初めてだ。
「完全に見切ってましたね!」
何回も、いやになるくらい繰り返したからな。
「もしかして《女神の祝福》って予見とか未来予知とかそういうスキルなんスか!?」
「そんな便利なシロモノじゃない」
未来予知だったらもっと楽ができたんだがな。実際には試行回数を増やして相手のパターンを把握してるだけだ。
「違うんスか」
「ああ。けどこれ以上は教えられないな」
「そんなぁ」
……教えられるものか。俺のスキルがただの“死に戻り”だなんて。
俺のユニークスキル《女神の祝福》は「
俺のはじめての死因(変な言い回しだが)は、仲間割れだった。
王様オススメの騎士団長だの聖女だの大魔法使いだのとパーティを組んだら散々な目に遭った。騎士と恋仲だった――そんな話は聞いてなかった――聖女がなぜか俺に色目を使ってきたかと思えば、大魔法使いのジジイが最終的には寝取ってしまい騎士がジジイを殺害した。ついでに俺も殺された。無茶苦茶である。
《
だから二周目以降、奴らには関わっていない。ソロの方がマシだと思ったのだ。
思ったのだが、いざ冒険を進めていくと行き詰まった。鍵のかかった扉と罠はどうにもならなかったのだ。実際、罠で何度も死んだ。
そういった経緯で俺のパーティは
【迷いの森】や森のダンジョンも、魔物に遭わない道順や最深部への最短ルートを見つけるまでしこたま死んでいる。
魔王軍四天王“神速の”シュネイルだって、初対戦というわけでは断じてない。
初手の不可視の斬撃でわからん殺しをされてからというもの、数えるのも嫌になるほど敗北を積み上げて、ヤツの動きをパターン化した末の勝利だ。ちなみに
俺のそんな事情を当然知る由もないフレディアは大いに盛り上がっている。
「これからどうしまスか? 四天王のふたりめをヤっちゃいまスか!?」
「それはどうだろうな」
テンションあがりすぎて調子に乗りまくっている彼女には悪いが、ここから先は
長い道のりになることだろう。
それでも、こうやって、ちょっとずつでも地道に進んでいけばいずれきっと――
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