5:四天王“神速の”シュネイルは勇者と対峙する



 私は急いでいた。囚われた同胞を救うために。


「ここは通行止めだ」


 にもかかわらず人間風情に道を阻まれた。


 その者たちはあらかじめ私がここを通ることを知っていたかのように、武器を構えていた。だが偶然だろう。待ち構えられようはずもない。私が今日この道をくことを知る者などいないのだから。


「なんの真似だ、人間」


 貧相な二人組だった。見たところ冒険者か。我ら魔族の領域を荒らし、魔王様の心痛の種になっている無法のやから


 ひとりは女。斥候か、盗賊か。大した脅威にはならないことは一目でわかった。


 もうひとりは男。剣士だ。他の貧相な装備とは不釣り合いな、強力な魔剣を携えている。強者とは言えないまでも独特な存在感のある人間だった。


「魔王軍四天王、神速のシュネイル……だったか?」


 剣士の男は我が名を知っていた。


「貴様、何者だ?」


「俺はリンカ。勇者リンカだ。ここでお前を倒させてもらう」


「ほう」


 勇者ときた。人間どもの英雄が私を倒す、と。


「クハハハッ!」


 笑わせる。ゴミが調子に乗りおって!


 こうして私の居場所を捉え道を遮った手管てくだには興味はあるが、始末すれば済む話だ。脅威足りえぬ。剣を抜き、構える。魔王様より賜った宝剣だ。


「人間相手に振るうのは勿体ない業物ではあるが――」


「その業物を使う最後の機会だ。心残りのないようにな」


 勇者を名乗った男が淡々と、だがはっきりと煽ってきた。


「殺す!!」


 我が神速の剣にて、頭と胴を泣き別れにしてくれる!


 地面を蹴った刹那、私はその人間――勇者リンカの口元が笑みの形に歪むのを視認した。

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