3:勇者が斥候の私を仲間にしているワケ





「そこに段差がある。気をつけるんだ」


「はいっ、あざっス」


 勇者リンカは初見のダンジョンを勝手知ったる友人宅さながらにすいすい進んでいく。それも斥候わたしの前を、だ。【森】だけじゃなくて初見のダンジョンでも迷わないなんて。勇者だから? チートズルすぎない? 


「フレディア。罠がある。解除はずしてくれ」


「アッハイ」


 呼ばれて私はポーチの七つ道具に手を掛ける。


 ほとんど完璧超人に思える勇者リンカが斥候わたしなんかをパーティに加えている理由がコレだった。


 扉や宝箱の開錠と、罠の解除。


 ダンジョンの入り口の施錠状況やダンジョン内の罠の位置なんかを把握できてはいても、それをどうこうするスキルは無いみたいだ。このへんが勇者のユニークスキル(?)の数少ない穴なのかもしれない。穴というには小さすぎるし、この穴をほじくりかえしてもなんにもならないような気はしている。







「フレディア、頼む」

「ういっス」


 罠を解除。


「今度は鍵だ」

「はいはい」


 鍵を開錠。


 解除。解除。開錠。解除。開錠。開錠。解除……。


「フレ――」


「あーもう! 多すぎないっスかぁ! このダンジョン!!」


 いい加減うんざりして叫ぶ。

 斥候の仕事なのはわかっているけれど、普段は絶対に口にしない愚痴くらい言わせてもらいたい頻度だった。しかも手の込んだ鍵と罠ヤツらばっかり。


「お前はいつもソレだな」


 勇者リンカが呆れ顔を向けてきたので、


「え? どれですか?」


 私は問い返した。すると勇者リンカは私を睨んで、それから首を横に振った。


「なんでもない。気にしないでくれ」


「……はあ。そースか」


 なんだったんだろうか今のは。いつもソレ? どれが?







 ダンジョンの最深部に到着するまで、どれだけスキルを使ったかわからない。途中で勇者リンカからスキルポーションを三本ももらったほどだ。ヘトヘトになってしまった。でもスキル経験値がガッポリ入ったのはよかったかもしれない。


 最深部はやや天井の高いドーム状のスペースで中央部に台座があった。


 そこには明らかにレアモノとおぼしき剣が突き立っていた。


 勇者リンカは青白い光を放つそれを無造作に引き抜いた。古い遺跡の秘宝を入手したというのに、表情はほとんど変わらなかった。いつもの無表情。普通ならもっと喜んだり驚いたりするところだろうに。


 まるでごく当たり前のことのような態度。あるいは、あらかじめすべてを知っていたみたいなリアクションだ。


 知っていたといえばこのダンジョンの情報も、だ。 ダンジョンの場所も内部構造も勇者リンカはすべて把握していた。いったい、いつ、どこで情報を入手したんだろうか?


「聞いても答えてくれないだろうなー……」


「何をだ?」


「な、なんでもないっス!」



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