17.男子。シード権。

「あのセンセ、ハズレだよね。」


 それは小さなヒソヒソ話だった。


「ニコニコしてるのも最初だけ。授業はまるで理屈っぽくて訳がわからない。眠いし成績は下がるし最悪。」


「感じは良いんだけど残念だよね。」


「多分自分だけだよ、あの授業理解してるの。」


「だよねあはは。」


 村上先生は、自らに向けられた細かい棘のような囁きに傷ついた。最善をつくした英語の授業。何も伝わらずほとんど生徒は眠っていた。独り言みたいに授業する虚しさ。


 教師にむいてないんだ。それで、逃げた。心身の不調を理由に休んだのだ。そして、転校。当時の校長からは諦めないで、と念を押された。あなたの魅力が必ずどこかにある。自分の強みを探しなさい。


 私ってなんだろう。村上先生は考えた。へらへら愛想を振りまいて難解な授業を理由に嫌われる。嫌だ。惨めだ。私は、結果を求めている。もっとみんなにわかって欲しい。みんなが絶対に認めるしかないような結果を出したい。


 村上先生は、笑顔を封印しようと決めた。そして英語の授業はもとより、経験のあるバスケで、勝負しようと決めたのだ。理詰めで、頭を使ってどこまでも賢く孤高を貫いて。


 村上先生の目標は、このチームをコントロールし、県大会に優勝する事だった。



 次の試合まで時間が空いたので、凛たち一年は男子の試合を見学していた。男子はシード権があり弱いチームとは当たらない。いきなり3回戦からの出場だ。


 綾瀬くんがスタメンにいた。凛と雄のテンションがあがる。男子の試合は速攻から始まった。ボールを奪うとすぐに味方がゴールに走っている。ロングパスが通る。すぐに2得点。


 相手チームは強豪校だと萎縮してしまっている。ディフェンスはいきなりのオールコート。スティール。速攻。決まる。相手チームにボール運びをさせなかった。圧倒的。すぐに得点は15点も開いた。まだゲームは4分だ。どこまで突き放すのか。


 100点ゲームは確実になり試合は早いペースで進んでいく。流石に県大会優勝校。これが実力というものか。スタメンがチェンジになった。全員だ。綾瀬くんの出番は終わった。マネージャーの三雲さんがタオルとドリンクを渡しているのが見える。凛は複雑な気持ちになった。


 セカンドメンバーになってからは試合は少し動きを見せ相手チームのシュートも決まった。ハーフタイムで54対21。逆転はもう無理だと考えたのか三年の引退試合だからなのか相手チームの顧問も頻繁にメンバーチェンジをしてきた。


 凛はよくみていた。シュートがよく入る人、パスをやたら回す人、それぞれ個性がある。リバウンドをとるのはいつも相手の5番。スリーを打つがよくシュートミスをするのが相手の10番。凛は5番がいるときは皆がよくシュートを狙うことに気づいた。そうか、リバウンドをとれる安心感があるからポンポン打てるんだな。リバウンドって大事だな。


「何やってんだ!」


 伊東先生の怒りの声が聞こえた。5番に10個目のリバウンドをとられたこちらの14番に向けてのかつだった。


「てんでできとらん!」


 14番は交代させられ綾瀬くんが入った。5番の活躍はそこで終了してしまった。綾瀬くんはまるで先読みしていたかのごとくボールが落ちる場所に待機していて見事リバウンドをキャッチする。パス。こちらのオフェンスになる。シュートが決まる。センターは一つのキーマンだと凛は思った。雄をみると完全に綾瀬くんだけを追っている。雄には三雲さんのことはまだ言っていない。私たちのチームは信子と雄がセンター。果たして綾瀬くんみたいな凄いプレーができるのか。


 奏歩が男子の試合結果を見て言った。


「私たちの追いつけない領域にいる。なんか悔しい。だって一緒にドッジボールしてた気軽な綾瀬くんがあんな活躍してさ。私だって強くなれるはずなのに」


 凛は答えた。


「それは傲慢だよ。だって男子とは体の作りが違うもの。中学の練習量は全然違うし」


「私はね、三年たちが負けようが悔し涙で引退しようがどうでもいいの。ただ、私だけが勝ちたいの」


「凄い唯我独尊。バスケはチームプレーだよ? 自己中じゃ駄目。なんで奏歩は個人競技にしなかったのさ」


「だってバスケが好きだから。パパみたいになりたいから。私だって本当は皆と目を見張るような凄いチームワークを発揮してみたい。本当は仲良くしたいのよ?」


「ようやく本音がでたね。それならもっと皆を見なさいよ。悪口ばかりじゃないんだよ。皆に興味をもちなさいよ。話をしなきゃ始まらないでしょ。奏歩、信子とも雄ちゃんともよそよそしいじゃん」

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