18.奏歩。信子。雄。凛。

「だって話題がない。」


「腐るほどあるじゃん。練習の愚痴とかどうやったら上手くなるかとか。奏歩のハンドリングの技術を伝授するとかさ。」


「わかったよ。」


 奏歩は少し離れた席にいた信子の方へかけていった。


「信子、一緒におにぎり食べる?」


「ごめん私緊張でお腹下してる。」


「そか。わかった。じゃ一緒にウォームアップする?軽くジョグ。」


「いいよ。」


 奏歩と信子は体育館の外のランニングロードにでて、軽くジョギングを始めた。信子はまだ奏歩の事を怖がっており口数少ない。奏歩も、何を話していいか分からず困惑している。


「今日何時に起きたの?」


「7時かな。」 


「さっき試合出てみてどうだった?」


「まあまあかな。」


「なんでバスケ部入ったの?」


「なんとなく。」


 こりゃ駄目だ、と奏歩が匙を投げた時、雄と凛がやってきた。


「お二人さん仲良くやってるね。」


「どこが!」


 雄は初めて試合を経験した感想をとうとうと述べた。


「やっぱさー私はディフェンスが無理だわ。体当たっちゃうじゃん。遠慮してしまってね。」


「そんなん言ったら負けちゃうじゃん。ガンガン当たりなよ。壁になったと思えばいいの。雄は立ってるだけ。向こうが勝手に当たってくる。それなら向こうのファールだよ。」


「でも」


「バスケは激しくぶつかり合う勝負なんだよ。相手に進路を譲ってどうする。」


 奏歩は怒りぎみだ。雄の弱気が赦せないらしい。信子がそこで初めて自分から口を開いた。


「奏歩ちゃんはどうしてそこまで勝ちにこだわるの?」


「どうしてもないよ。勝負なんだから勝ちたい。勝ったら気分よくない?」


「私はだめだなあ。あんなきつい練習してまで勝ち進みたいって気持ちがわかない。負けててもしんどいけどね。」


 凛も同意した。


「わかるわかる。どうせ負けてもしんどいよね。バスケの楽しさっていまいちわかんない。」


「だよね。」


「皆なんでバスケ部入ったのさ。」


「だって先輩が、怖かったからだよ。」


「あのなあ。」


 奏歩はやれやれといった様子だった。


「ボールを持ったときのワクワク感とか敵を抜いた爽快感、シュートの決まった時に誇らしい気持ちとかは感じないわけ?」


「そりゃまあそうだけど。」


「勝たなきゃ爽快感は味わえない。シュートが決まらなきゃ走っても無駄なだけ。私は無意味なことが一番嫌い。村上先生は県大会出場って言ったけど私は男子にも負けたくない。このチームで県大会優勝するつもりでいるの。」


「まじか。こんな素人寄せ集めで?」


「まじだよ。」


 奏歩の熱さに対して他のメンツは冷めていた。もはや走り込みに嫌気がさしていたのだ。だから、三年の試合にもできれば出たくないのが山々だった。どうせ圧倒的な点差で負けるに決まってる。走りたくない、嫌だった。


「ほら試合始まるよ」


 雄が時計の時間に気づいた。皆は三年と合流すべくコートへと向かった。三年たちは余裕の表情だ。


「皆楽しむよ!」


 一華がいう。


「ふぁいとお、おー!」

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