第12話 やよい姫の異世界骨董店

 今回の話は、別の作品「やよい姫の異世界骨董店」に載せているものですが、内容はほほ同じなので、そちらを読まれた方は、読み飛ばされて結構です,

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弥生やよい姫、異世界骨董店は、やっぱり無理がありますニャ………」


 飾りにしかならないクラリネットの埃を拭きながら、猫娘は奥のカウンターに座る店長の弥生姫に声をかけた。


 弥生姫は、雪白の肌を露出気味にした派手な着物をだらしなくも、可憐に着こなし。伏し目がちな琥珀の瞳に、波のような亜麻色の髪が、妖艶さを漂わせている。アマテラスにも劣らない麗人だ。


「最近は異世界転移、異世界転生、異世界レストラン、異世界エステ、異世界キャバレー(ちょっと怖い……)などなど、異世界が目白押し。そこで、異世界への販路拡大、時代の流れに乗り遅れないようと思って、こちらで商売を始めたのだけど」


 弥生姫は猫娘を探るような眼で見つめ

「ひょっとして、なつかしの骨董市も、異世界への進出を考えているのではー」


「そっ……それは、知りませんニャ……」

 図星のようで、目をそらして口ごもる猫娘は、この数日、弥生姫の経営する異世界骨董店の手伝いに来ている。


 店員がしばらく出張らしく、それを聴いたアマテラスが、商売敵でもある弥生姫の異世界骨董店に、なぜか猫娘を手伝いに派遣したのだ。 


 あきらかに下心ありありで、弥生姫に恩を売り、最近出店した異世界骨董店の敵情視察、さらに異世界や並行世界の情報を収集して、営業不振のひもろぎ系列の立て直しを目論んでのことだが、用心深い弥生姫もあっさり受け入れた。


 それは、前から目をつけていた猫娘を、ヘッドハンティングしようと企んでのことだった。


 そんな、双方の混沌とした思惑を知らない猫娘は、真面目に仕事に励んでいる。

「そういえば、アマテラス様が、この店で売ってもらえないかと、品物をいくつか預かっていますニャ。値段は弥生姫様が好きに決めてくれればいいと」


 猫娘はみかん箱ほどの木箱を両手で抱えて持ってきた。

「どうせ、異世界での需要があるかを探るためでしょ。でも最近のアマテラス、色々事業を広げてるけど大丈夫なの。そんなに商売の才能はないと思うのだけど」


 それには猫娘も同感なようで、心配そうに頷いた。

 弥生姫は面倒くさそうに箱の中を見ると、雑貨、おもちゃ、子供の楽器などが詰め込まれていた。


「なにこれ! ガラクタじゃない、こんなの置けないわ。私の店にはそれなりに、由緒ある物ばかり。どこのだれが使ったかわからない中古品は、だーめ! 」


 相手にせず、そっけなく言うと。

「それより猫娘ちゃん、休憩にしましょう。甘いラスクがあるよ」


 猫娘も、最初から無理な話だと思っていたので

「まあ、確かにそうです。しかたありませんニャ」

 あっさり引き下がり、箱はさっさと奥に置いて、砂糖たっぷりのラスクに引き寄せられた。



 二人はテーブルに座ると。薫り高いコーヒーと甘いラスクを食べながら

「花柄のスエットにフレアスカート、カジュアルな猫娘ちゃんも可愛いわね」

 猫娘も女の子、うれしそうに照れ笑いする。


 こうして、お菓子を出し、服を褒めて、なんとか気を引こうとする弥生姫だった。一方、猫娘は気になることがあり


「ところで弥生姫は、どこかのお姫様なのですか」

「うーん、本当は姫と言うわけではないのだけど……まあ、神に近いかな」


「へえー。何の神様ですか」

 それには、含みのある微笑みで

「うふふ、それはこの物語の最後に話しましょう」


 もったいぶって話そうとしない弥生姫に、猫娘は不満なようで、横を向いて独り言のように、「そして、その真実は! と言って、コマーシャルになるTV番組の常套手段。


 へっぽこ作者が、つまらない話をなんとか最後まで読んでもらおうという姑息な伏線。そんな場合、たいてい、たいした話じゃないニャ」


 聞こえていた弥生姫は、図星のようで青ざめた。

 そのとき、店の扉の鈴がなり、お客様のご来店!


◇エルフの兄妹

 さて、今日の最初の客は……


 入ってきたのは、エスキモーが着るような分厚いコートを着た少年と少女。なぜか、雪にまみれ、よく見ると耳が尖っている


(やはり来たか、エルフ)

 異世界といえばエルフ………へっぽこ作者の知識と、想像力はこの程度かと、猫娘は再びため息をついた。


 ただ、様子が変だ。ふたりとも、ふらふらで店に入ったとたん倒れ込んだ。

「どうしたんだニャ! 」


 猫娘が駆け寄ると、子供のエルフは凍えているようで体が冷たい。すぐに、弥生姫が奥のソファーに毛布を敷いて、服を着替えさせて寝かせた。


「どうして凍えているのニャ。店の外は異世界で、冒険者や獣人がうろついている西欧の中世のような石畳にレンガ作りの街………のはず」


 そう思って、玄関の上にある丸いダーツの的のような表示盤を見ると。

 そこには【異世界】【人間界】【高天ケ原】【弥生の部屋】と書かれ、表示版の真ん中に矢印の針があり、横の紐を引っ張ると針が回る仕組みで、今は【異世界】を指している(これも、どこかで見たシチュエーション) 


 猫娘が来た時の表示版は高天ケ原になっていて、そのあと弥生姫は異世界に矢印を変更した。ただ、そのあと猫娘は外に出ていない。


 猫娘は嫌な予感がして、エルフの兄妹が入ってきた骨董店の玄関の扉を開けると

「ええーーーー! 」


 外は吹雪の冬山の山頂、周りに町や人はおろか、道もない


「弥生姫は何を考えているニャ! こんなところ、お客が来るわけない」

 振り返ると、弥生姫は


「大丈夫よ、この骨董店は動くから」


「動くって……弥生姫の動く骨董店、とでも言うのですかニャ」  

「そのとおり、今は山越えの最中みたい」

 釈然としない猫娘は、なんとも言えなかった。 


 しばらくして、エルフの兄妹が目を覚ますと、弥生姫は暖かいスープを飲ませて、少し元気の出てきたエルフの兄妹に

「こんな吹雪のなか。道に迷ったの」

 すると、エルフの兄の方が首を横に振り

「雪山の奥に、幻の骨董店があると聞いて、来たのです」


「この店を目指していたの」

 エルフの兄がうなずくと


「僕たちの村の水源の守り神の水竜が洞窟の奥に隠れて姿を見せなくなり、そこから流れる地下水が枯れたのです。普段は竜を呼び覚ます曲を笛で奏でると、再び地下水が湧くのですが、村にある古くからある笛を、妹が壊してしまったので……」


「妹エルフちゃんは、その曲の奏者なの」

 猫娘が聞くと、兄エルフはうなずいて

「妹は小さな頃から笛が上手くて、村の竜神を操る笛の奏者になったのです。笛も、とても大事にしていたのですが、音が出なくなったのです」


 そこで、責任を感じた妹に、兄が一緒に決死の覚悟で、魔法の笛があるという、冬山の山頂にある骨董店に来た、ということらしい。


「そうですか、優しいお兄さんだニャ。でも、大変だったでしょう」

 猫娘が同情するように言って、弥生姫に振り向くと。目があった弥生姫は


「……それは、お気の毒に」と、他人事のようだ。

そんな冷たい態度に猫娘は


「弥生姫。この兄妹は決死の思いで、ここに来たのニャ。何か霊力のある笛はありませんか」

 弥生姫は面倒くさそうに


「まあ、猫娘ちゃんがそう言うなら。あることはあるけど……」

 弥生姫は、奥の古い家具の引き出しを開けて、いくつか笛もってきた


「魔の力を宿す笛といえば、このファーメルンの笛、でもこれは子供にしか効かないし、魔笛のマルシュアスの笛もあるわよ。それと、日本製では……」さらに別の棚から


「これは、青葉の笛と言って、源平の戦いで若き武将で、笛の名手の平(たいらの)敦(あつ)盛(もり)の笛。それと……これは京の五条の橋の上で、弁慶と対峙した、女装の牛若丸が吹いていた笛よ」


 次々と出てくる、超超レアなアイテムに、猫娘は唖然とし、エルフの兄も目を輝かせ、妹エルフは身震いしている。


「なんで、こんなすごい品物を持っているニャ。高天ヶ原の蔵にも、これほどのものは、そうそうない。これなら、絶対竜神様も目を覚ましますニャ! 」


「言ったでしょ、私の店の品は、由緒ある物ばかりなの」

 少し得意気な弥生姫。


 エルフの兄は、ここまで来たかいがあったという笑顔で

「売ってもらえるのですか」

「もちろんよ! 」


 買う、と言われると、弥生姫もさすがに営業スマイルになる。

「幾らになりますか。村から集めた銀貨五十枚と金貨二枚あります」


 兄エルフは、持ってきた村人が出し合った硬貨を見せた。金貨一枚でもエルフ一年分の給金に相当する。

 しかし、弥生姫はエルフの兄妹が持ってきたお金を見ると、突然、表情が一変した。


 さきほどの、営業スマイルから急に兄妹を見下したような雰囲気になり。

「猫娘ちゃん、この品物。なつかしの骨董市なら幾らで売る」


「そりゃー、億はくだらないニャ」

「億ねえー、金貨なら一万枚ってとこかしら……」

 それを聞いて、エルフは愕然とした。


 城ひとつが買える値段だ。真っ青な表情で震えて、泣き出しそうだ。

「そういうこと、悪いけど。私達も、商売だし」

 弥生姫はそっけない。


 猫娘はさすがに、エルフの兄妹が可愛そうになり

「なんとかならないですか。売るのが難しいなら、一時的にも貸し出すとか」

 弥生姫は少しきつい調子で


「レンタル店じゃないのよ。私達も商売、なんとかしたいのは山々だけど、この子たちだけ、というわけにいかないでしょ」

「そこをなんとか」


 猫娘が懇願すると。さすがに弥生姫は肩を落として

「わかったわ。猫娘ちゃん、アマテラスからあずかってきた、ガラクタの箱を持ってきて。何かあるのじゃない」


 それは猫娘も考えていたが

「なつかしの骨董市で売られている物は、基本的に品物自体に不思議な力が宿っているような物はない。関係ない人にとっては、本当にガラクタだニャ」


 無駄だという猫娘に、弥生姫は

「まあ、いいから持ってきて」


 しかたなく、猫娘が箱を持ってくると。弥生姫は箱の中から何か見つけ出した

「これなんかどう。これなら銀貨一枚でいいよ」

 適当に取り出したようにしか見えない、それは


「リコーダー」


 よく見ると「…小学校 一年四組」と書かれている。猫娘は(なんて、いい加減な)と思ったが、念の為に大福帳を見ると

『小学生の少女が使っていたリコーダー』と書かれているだけ。


「やはり、ただのリコーダーです。人によっては、思い出の品かもしれませんが、エルフの兄妹が思っている霊力などは全くないですニャ」


 やる気のない弥生姫に、落胆した表情をする猫娘

 エルフの兄もがっくりした表情で

「こんな物じゃあ、竜神様は納得しないよ……」


 猫娘も、同じように思い、

「弥生姫、確かにこんな物じゃなく。今回だけでも、貸してあげるのはだめですかニャ」

 

「こんな物………」


 弥生姫は、猫娘にあきれた表情で

「なつかしの骨董市の店員ともあろう者から出る言葉とは思えないわね」


 その言葉に、なぜか圧倒され猫娘は固まって、言葉が出ない。

 弥生姫は、次にエルフの兄に向かって


「どうして、これではだめなの」

「だって、とてもすごい霊力が必要なんだよ」

「すごい霊力ねぇー。それって、古い物、いわれのある物、高価な材料で優秀な職人が作った物、偉大な演奏家が使っていたもの、だれかが魔法をかけた笛」


 エルフの兄が首肯すると

「言っては悪いけど、小さなエルフの村に、竜を抑え込むほどの笛なんて、そうそう、あるはずはない。それから、先程から黙っている妹エルフちゃん……あなたはどうして、笛吹きになったの」


 睨むように言われた妹エルフは、少し怯えながらも

「それは……笛が好きだから」


 弥生姫は何か確信したように、うなずくと

「だったら、妹エルフちゃん、この笛を吹いてみて」

 すぐに妹は、吹き始めた。


 そぼくで、どこか懐かしい音色が奏でられる。

 しかし、特段変わらないリコーダーの音。エルフの兄や、猫娘も特に変哲のない音色だと思ったが、吹き終わった妹エルフは顔を紅潮させて


「………これは」


「どうしたんだ」兄エルフが聞くと

「お兄ちゃん! これなら、いける、私これがいい! 」 

「ええ! どうして」


 驚く兄エルフに弥生姫が笑みを浮かべ

「リコーダーだって、中世からある列記とした楽器。上手く吹きこなすのは決して簡単じゃない。そして、今の妹エルフちゃんに、最適な品だと思うわ」


 妹エルフも、笑顔で大きくうなずいた。

「どういうことなのですニャ! 」

猫娘が聞くと 弥生姫は妹エルフの頭をなでながら


「ファーメルンの笛とか、レア商品を見せた時、妹エルフちゃんは全く気にも止めなかった。それどころか、怯えていたようにも見えた。妹エルフちゃんは、自分の実力ではこれらの笛は吹きこなせないと思ったのでしょ。でも、竜神は妹エルフちゃんの笛の音に魅了されている」


 猫娘は、はっと思いついたようで

「だとしたら……笛の力ではないのでは」

 弥生姫は笑顔でうなずくと


「要は高くても安くても、使い方が下手でも、道具は大切に使うことが大事。使い続けることで、道具はその能力を発揮し、使う人の価値も高めてくれる。人と道具はこうしてお互いを高めあってきた」

 さらに弥生姫はこれまでと違い、やさしい笑顔で


「妹エルフちゃんは、笛を大切に扱ったけど、その笛も寿命だったのじゃないのかな。すぐに帰って、その笛を吹いてみて。きっと大丈夫! 」

 最後は力強く言うと、妹エルフは笑顔で大きくうなずいた。


 ただ、猫娘が神妙な表情で

「でもここは雪山の中、どうして帰るニャ……」


 すると弥生姫が、窓を見ると

「さて、そろそろいい頃かな」

「いい頃って」


「さっきも言ったでしょ、この店は動くのよ」

「動くって、ひょっとして! 」


 猫娘が玄関に向かって扉をあけると………

 緑の草原が広がり、その先に遠く小さな村が見えている。


「僕たちの村だ! 」

 兄エルフが叫ぶように言うと。

「さあ、行きなさい」

 弥生姫が笑顔で送り出した。


「はい! ありがとうございます」

 兄妹エルフは、一緒に頭を下げて村に向かっていった。


◇弥生姫

 見送った弥生姫は、横で手を振る猫娘に

「さあ、もう今日は店じまいにしましょうか」


「はいですニャ」猫娘は答えると、弥生姫を羨望の眼差しで見つめ

「弥生姫! 見直しましたニャ」


(むふふ、これは脈ありだな。もう一息で引き抜ける)と弥生姫は、ほくそ笑んだ。

 ふと、猫娘は思い出したように


「そういえば伏線の回収ですが、弥生姫様は何者なのですか」

 思わぬ言葉に、弥生姫は慌てて

「……まだ、覚えていたの」

 このまま、うやむやにしようと思っていたのだが。 


「まぁー、弥生時代に生まれたから弥生と名乗っているのだけど……そういえば、弥生時代後期には、卑弥呼様に使えていたことがあるの。そのあとしばらく、眠りについたのだけど、いろいろあって最近目覚めたの……」

 どことなく、大事なところを端折っているようだが


「あの、卑弥呼に使えていた! 」

 猫娘が、再び羨望の眼差しで弥生姫をみつめると。弥生姫は少し面映い様子で


「まっ……まあ、私ほどの者になると、卑弥呼のそばにいるのも当然かな」

 なぜか、ぎこちない弥生姫


「そうですか、さすがです。また、来てもいいですかニャ」

 猫娘はさらに、心酔したようだ。 


「もちろんよ! 是非来て、なんなら、借金も肩代わりしてあげるから」

 弥生姫は満面の笑顔で、猫娘の手を握り


「よかったら、弥生の部屋にも来てね」

「弥生の部屋って……なんか、着替え中なんてことは」

「いいじゃない、可愛い猫娘ちゃんなら、大歓迎よ」


「わっ………わかりました。それでは……」

 そして、猫娘が帰るというとき。


「そういえば、このまえ狐目でスーツ姿の男がやってきて、やたらヒモロギの骨董市のことを聞いていたわ。さらに、私とジョイントで起業しないか、なんて言ってきたの」

「それで」


「あんな怪しいやつに、応じるわけないでしょ。この店に来られること自体、普通ではないし。あなた達も気を付けた方がいいわよ」

猫娘はうなずくと。少し疲れた様子で高ケ天原に戻っていった。


◇高天ケ原


帰ってきた猫娘にアマテラスが

「最近ひもろぎ系列の売り上げが不振で、異世界にでもって思ったのだけど、異世界はどうかな」


猫娘は「うーーん」と考えたあと

「それなりに、需要は考えられますが。どのような物語にするか……いや、どのような物を売るかが難しいですニャ」


「そうか、へっぽこ作者ではそろそろ限界みたいだし、ここはやはり経営コンサルタントに頼んでみようかな……」


「でも、私たちは、アマテラス様のような神様のお店、言わば非営利団体です。無理なさすることはないですニャ」

「そうだけど……」


 どこか焦るような表情のアマテラスが見ている派手な広告のチラシに、なぜか嫌な予感のする猫娘だった。


「それより、どうだった異世界は」

 アマテラスは話題を変えると

「はい、楽しかったです。弥生姫はなんでもないリコーダーをエルフに渡したのです。なかなかの策士ですニャ」


感心している猫娘に、アマテラスは神妙な表情だ

「ふーん。あのリコーダーを渡したと。侮りがたいわね弥生姫」


 猫娘の表情にアマテラスは少し焦っている

(弥生姫の所に行かせたのはまずかったか……このまま、弥生姫のところに行くなんて言わないだろうか) 


 すると猫娘は

「ところで、あの弥生姫は何者なのですか、卑弥呼にも使えていたと自慢していましたが」

「使えていた………プツ、ハハハ。まあ、使えていたといえばそうですね」アマテラスは笑いながら

「弥生姫はねぇ………どき」


「どき」


「そう、弥生式土器の化身、よく言えば付喪神ってとこかしら。確か、卑弥呼の厠の手洗い用の器だったみたい。そのあと、どこかの豪族の手に渡って、古墳時代にその豪族の陵墓に、間違って一緒に埋葬されたみたいよ」

「それで神に近いと言ってたのか。でも、土器で、古墳に埋葬された……ククク」

 猫娘は笑いをこらえている。


 アマテラスはさらに、弥生姫の醜態を暴露しようと

「それだけじゃないの、実はその古墳が盗掘にあって、財宝がことごとく盗まれたのだけど、弥生姫は完全な形で残っていた土器にもかかわらず見向きもされなかった。そのおかげで、その後の発掘調査でみつかったけど、博物館の展示品にもならないので、倉庫に置かれたままなの」アマテラスは、猫娘の表情を伺いながら


「でもあの弥生姫の前で、土器って言ってはだめよ。自分が土器だったことに、コンプレックスがあるのだから」

 これで猫娘が弥生姫に愛想を尽かすかと思ったが


「今どき土器を使う人はいないでしょうが。弥生姫のような土器だって、厠の手洗いとして役にたっていたのだし。こうして今にそのころの生活の様子を伝える、大変価値ある骨董品じゃないですかニャ」


 切り替えされた猫娘にアマテラスは一瞬青ざめると同時に、やさしい猫娘を絶対手放すまいと思った。


「ところで、どうして弥生姫は姫と呼ばれているのですか。アマテラス様も姫とお呼びですし」

 猫娘の素朴な質問に、アマテラスはさらに引きつった表情になった。 


 これは、弥生姫の美談のようで、アマテラスにとって、分の悪い内容になる

「……っつ! それは、そのうち話しましょう」


「またか………」


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