第26話

 私達はのろのろと進んだがやっと屋上に着き、時々酸素ボンベから酸素を吸いながら外を見渡すことができた。先に屋上に上っている人たちがなにやら騒いでいる。

「あれはなんだ?」

「どこからやってきた!」

私達は人だかりの隙間をかいくぐり、なんとか前に進み、海面が見られる場所にまで来た。

「何あれ?」

母が言った。海に棒が刺さっている。その棒は空高く長く続いている。波除バリアで良く見えないが太いものの他に細いのも何本かある。東の方に何本かでまとまって刺さっている。

「あれは海水だ!海水が空に吸い上げられているぞ!」

近くの双眼鏡を覗いていたおじさんが叫んだ。その吸い上げられている海水の柱のようなものは、どんどん合体していき、太くなっている。細い海水の筋が天に昇ったかと思うと、すぐにその筋は太くなっていく。そしてどんどん新しい海水の柱が増えていき、各々近くのものと合体しては大きくなっている。今ではかなり大きな海水の柱が4、5本出来上がっている。


「見ろ!みんなあれを!陸だ!陸地が見え始めたぞ!」

誰かが叫び指さす方を見ると、確かに小さな島のようなものが見える。皆が歓声をあげる。おかしい、ククの夢ではひどい被害が起こるはずだ。St2もすぐ横に浮かんでいて、屋上に上がった人たちも陸地を見ているようだ。


 西の方から光が点滅していることに気づく。ここからかなり離れた場所に、潜水艇になったSt3が浮かび上がっていて、強烈な光をこちらに向けている。点滅信号だ。クク達がサインを送っている。

「なんの合図なのかしら。」

母が不安そうにそれを見つめる。

「あいつら何を言っているんだ?」

誰かが叫んだ。

「海に飛び込んで、あいつらのほうに避難しろだとよ!」

誰かが大声で答えた。その場にいる人々が口々に、あきれるような声をだした。どうして、なんのために、こちらの方が安全だろう。この場で危険が迫っていることを知っているのは私だけだ。「亡くなると言うか、人がいなくなる。」そんなふうにココは言っていた。そしてそれを予め知っているSt3はあんな遠くにいて、ここにいてはだめだと言っている。私は救命ベストがどこにあるか母に尋ね、屋上の赤い倉庫に保管されていると知るや、その群衆をかき分け飛び出した。

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