第8話

 今日は母と家で夕食をとる。食堂から食事をテイクアウトすることも可能なのだ。肉もどきにジャムをつけて食べる料理を、母が嫌がって私のミールボックスに入れた。カナンは成長期だから、いくら食べてもいいのよと言う。食堂ではいろんな昔の国の料理がでる習慣があり、そんな日を母は嫌っている。そして自炊がしたいとよくこぼしている。自炊の権利もポイント制で得ることができる。作業で貢献したと判断されれば、ポイントを与えられ、母は自炊コーナーでよく料理を作ってくれた。大釜で作られて配食で冷めてしまった料理より、目の前にいる人のために作った出来立ての料理の方がおいしいに決まっている。

「今食べたいものを自分で料理して食べられないなんてね。食べた気がしないわ。」

母は食にうるさく、少し瘦せている。父はだされたものはなんでも食べる。食に関して私は比較的父と似ている。

「作業でいくら頑張っても、ポイントなんてなかなかもらえないものなのよ。評価する人に取り入ることが上手い人か、センターにコネがある人だけよ、ポイントがもらえるのは。私よりあきらかに無能の人を、どうして私がサポートして、どうしてサポートされた側の方が、私より多くのポイントがもらえるのかしら。」

母の愚痴がはじまった。ある程度聞いてやらねばならない。

「ポイントはもらえないのに、仕事ができる人にはきちんと仕事がまわってくるものなの。そしてやってきた仕事にたいして手を抜くことができない損な性分、それがママよ。」

母は深くため息をついた。今日は食堂ではなく、自分の家で食べているので思ったことが言える。ママはキッチンに備え付けの小さな冷蔵庫から、少ないポイントで交換したお酒を取り出して、小さなグラスについで飲んだ。一杯以上は飲まない、酔っぱらって家事ができないからと常々言っていて、本当にほぼ毎日一杯だけ飲んでいる。

「だからカナンにはセンターから頼まれた仕事をうまくやって、将来センターがあるSt1に住んでもらいたいと思ってるのよ。」

と母が言う。

「でもSt2でも1でも3でもどこでも同じでしょ。それにSt1は紫外線の影響が大きいから、肌の遺伝子が強い人じゃないと住めないって聞いたことがある。St1に一旦住んじゃうと簡単にはここと行き来できなくなるし・・・。」

と私が答える。

「・・・そうね。」

母は手の中のグラスをじっと見ている。中身はもうない。

「とにかくカナンの絵の才能が認められて、ママは嬉しいわ。またその絵を持って帰れる時があったらママにも見せてね。」

「うん。」


 その後は一緒に映画を見た。主人公の女の子が親を亡くしたせいで、子供の頃ひどい目にあい、最後は周りのみんなに助けられて幸せになるという映画だった。13歳フォルダに入っている映画で、学校からのおすすめである。

 

 夜ベッドの中で思い出す、あの子みたいにパパとママが死んだらどうすればいいんだろう。そうなったら子育て共有所に入って、そこで寝泊まりして、学校もそこから通うことになる。まだそんな目にあった子に会ったことがない。里親家庭に入ることも可能だから、私が知らないだけで私の周りにもいるのかもしれない。子育て共有所はSt3にあると聞いたことがある。St3での作業は割り振られたことがないから、実際にSt3に行ってみたことがない。でも話なら少しククから聞いている。ククがSt1の中学校の中で、唯一のSt3出身だからだ。でもあまり話したがらないような気がするから、多くは聞けていない。私は枕元のライトを消した。

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