第7話 地下世界ってロマンだよね……足元には夢と浪漫が広がって

 俺はプロのトレジャーハンター橘 尹尹コレタダだ。

 皇居の地下に眠る埋蔵金の調査依頼を受けた俺は、何故かついて来た姪の尹尹イチカと共に地下道を進む。

 そんな俺達の行く手に立ち塞がる不気味な人影。

 怯えるイチカを護り、一人戦う俺も限界が近い。

 謎の集団に囲まれピンチになったが、俺の知恵と勇気で切り抜けるぜ。


 前回あらすじに一部誇張がありました事、お詫び申し上げます。

 叔父さんは、もう限界です。

 恐怖が限界なんです。

 なにか、何かないか。

 あんな戦闘民族たちとは違う、小動物な俺は必死に周囲を探る。

「あった! イチカこっちだ!」

 イチかバチか。


 鉱山風の其処に見つけた乗り物。その名はトロッコ。

 人が乗って漕ぐやつではなく、鉱石を運ぶ為の箱型だ。

「うそ。マ? だいじょぶなの?」

「知らん。これがブレーキなんじゃないか?」

 イチカを乗せると、脇のレバーを引いて押して走り出す。

 うまいことスピードに乗ってトロッコは走り出す。

 俺も飛び乗ると、尋常ではないスピードを出してトロッコは走り出す。


 ちょっと後悔するほどのスピードで、地底人? たちを引き離したトロッコは止まる事を知らずに走り続ける。

「ねぇ。これ、どうやって止まるの?」

 ブレーキを引いたら飛んで行くだろうな。

「なぁ、トロッコって何語か知ってるか?」

「今、どうでもいいでしょ! 何も考えてなかったんでしょ……何語なの?」

「日本語」

「うそっ」

 よし、トロッコ問題はごまかせたな。

 どうやって止まろうか。


 まぁ、冷静に考えれば当たり前だが、どこまでも走り続けるトロッコなんてない。

 ちょっと考えられないくらい長い事走り続けはしたが、トロッコは徐々にスピードを緩めていき、ゆっくりと止まった。

 うん。動力もないからね。下り坂しか走れないよね。

「もぉ~、考えなしなんだからぁ」

 君にだけは言われたくないけどね。

 トロッコを降りた所は行き止まりだった。

「マジかよ。またあそこへ戻るのかぁ」

「ただにぃ……これ……」

 イチカがライトを当てた壁は、大きな門の扉だった。


 扉の向こうに何があるのか。今来た道を戻りたくはないので、行くしかないのだが。開けるにしても、少し周りを調べて落ち着こう。

 門扉の上には家紋のようなものがある。

 良く見ようと、ライトをあてる。

「へ?」

「なにあれ」


 そこにあったのはキノコの絵。しかも、どう見てもマッシュルームだ。

「江戸時代にマッシュルームってあったの?」

「日本に入って来たのは明治だったと思うぞ」

 英語ではキノコ全般だが、日本ではハラタケ科ツクリタケを指す。

 確か17世紀頃のフランスだかで栽培が始まったんじゃなかったかな。

 フランスきのこともいうし。

 江戸時代の日本にはなかったと思うが。


「この門の先はキノコ帝国とか?」

「表札にマッシュルームって、どうなんだよ……そういや花言葉ってあったな」

「きのこに?」

「あぁ、イチカは花言葉なんて知らないか。花の種類で色々と意味が…いったい!」

 説明してやっているのに、いきなり蹴るなよ。モモが腫れ上がるわ!

「知ってる! 花言葉くらい知ってますぅ。キノコって花じゃないでしょ」

「キノコの本体ってのはな、地下に広がってんだよ。地上に出てる部分は、植物の花の部分と一緒なんだってよ」

「え~……まぁいいや。マッシュルームの花言葉って何」

「……福音ふくいん。この向こうに何があるんだろうな」

 椎茸は『疑い』だったり、松茸は『控えめ』だったりする。

 値段も控えめにして欲しいが、一番意味不明なのがエリンギで『宇宙』だって。

 きのこって凄いな。


 大きな門扉の脇の小さなくぐり戸。鍵も掛かっていないようで、ちょっとした軋みだけで意外と軽く開いた。

「は……はぁ?」

「な、なにこれ……町?」

 門の中には何故か木造家屋が立ち並んでいた。

 しかもかなり古そうだ。

「まるで……」

「江戸時代みたい」


 江戸の街並みを再現したセットのようだ。

 だが建物だけで人は居ないし、気配もまったく感じない。

 人が暮らしているような雰囲気がまってくないので、映画か何かのセットのような印象を受ける不思議な町だった。

 地下にあるのは不思議だが、どこかの撮影所に迷い込んでしまったのだろうか。

 どの建物も数百年経っているとは思えない程、新しく綺麗に見える。

 ……見える?

「なんでだ?」

「ただにぃどったの?」

「なんで見えるんだ? まだ地下だよな」

「あれ? ほんとだ、なんでだろ。別に明るくはないね」


 気持ち悪い。怖いわ!

 持ってきたライトだけで、特に明かりがある訳でも無い遠くまで続く江戸の街並みを何故か見通せる。真っ暗なはずなのに、街並みが見える。

 門の向こう、今来た道は変わらず真っ暗なままだが門の内側、江戸っぽい街並みだけが暗闇の中でもはっきりと見える。

「なんだこりゃ……気持ち悪いな」


 何が起きているのか、軽くパニックになりかけていると、さらに追い打ちをかけるように意外な声が聞こえた。

「置いてくなんてひどいじゃない」

「はぁ? なんでっ、どうやって来たんだよ」

「あっ、マサねぇだ」

 そこには何故かの権藤 政樹。

 おばちゃんのふりをしたおっさんがいた。


 何故か真っ赤なチャイナドレスのおっさんがいた。

「私も行くって言ったじゃなぁい」

 妙にくねくねしながら権藤が寄ってくる。

「おぉ、大人な色気かも……アタシも今度着てみようかなぁ」

「あら、今度一緒に買いに行きましょ。蹴りにも邪魔にならないわよぉ」

「いくいくぅ。のーさつするぅ」

 やめなさい。悩殺って誰をだよ。

 そんなの叔父さんは許しませんよ。お父さんも泣きますよ。


 イチカが変な物に興味を持ってしまった。

 地下深くの洞窟内なはずなのに、ミニスカートの女子高生と真っ赤なチャイナドレスのおっさんが、目の前できゃっきゃ言ってる。

「あの時といい、どっから入ってくるんだよ」

 以前調査していた遺跡でも、どこからか侵入してどこからか脱出していた。

 毎度毎度、どうやって潜り込んで来てんだか。しかもチャイナドレスって。

 腰までの深いスリットが入ったドレスを着たおっさん。

 長い裾の合い間から、おっさんの生足がチラチラと覗く。


 そういや、このエロチャイナドレスって、日本の物なんだとか。中国のはズボンを穿いていた気がする。あれを日本のエロいおっさんが改良だか改悪だかした物らしい。怒られないのだろうか。

 チラチラと覗く、おっさんの生足に目がいくのが、何よりも納得いかない。

 これが男の本能なのか。哀しくなってくるな。

 動く物を追いかけてしまう猫と一緒だな。仕方のない事なんだ。諦めよう。


「そんな事どうでもいいのよ。それよりも、スマホ見てみなさいよぉ」

 どうやらここならスマホで現在位置の確認が出来るようだ。

「は?」

「ね? そんな事ってあるのかしらねぇ」

 やっぱり皇居からは大分ずれていたが、そんな事ってあるのか?

「どこなのぉ……公園?」

 イチカは知らない公園だったか。結構有名だと思っていたが。

 地図に表示された現在地は……夢の島公園。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る