初の戦闘、からのトラップ
今私は大きな蜘蛛型のモンスターと対峙している。
ダンジョン内で薄暗いものの、探索され尽くしたおかげで
しかしそれはそれで、胴体から8本の足を出し蠢いているそのおぞましい巨体は、かなりキモイし恐ろしい。
「ぐぬぬぬぬ……!」
しかし、その蜘蛛の狙いは私ではなくタンク役のホノカ。
ホノカが大盾で蜘蛛の攻撃を防いでくれる。
そしてホノカがスキルを発動させて蜘蛛を大きく仰け反らしたところを、私が叩く。
「りゃあーっ!!」
精一杯の気合いとともに、がら空きの胴体に向けて全力の横薙ぎをお見舞する。
「──ギショォェァッ……!」
気持ち悪い咆哮とともに、蜘蛛は大きく飛ばされて洞窟の壁に激突。
そのまま動かなくなって、光粒となって消滅していった。
「……ふう。やっぱ虫苦手だな、私。」
消滅していく様子を見ながら剣を収める。
するとホノカが近づいてくる。
「さすが毎日重いハンマー振ってるだけありますね。パワーが段違いです。」
「ま、まあね。あとは剣のスキルのおかげかなー」
「へー、どんなスキルなんですか?」
「えっとね……たしか【ノックバック強化】と【斬撃ダメージ増加】。あ、あと【耐久度強化】もあるかなー」
そこまで私が言った時、不意にホノカに腕を掴まれる。
ホノカは驚いた顔で言った。
「そ……それって、なにかの冗談ですよね……??」
「……? いや、事実だけど……」
私は頷く。
来る前にちゃんとステータスは確認してきた。
それに結構良い出来の剣だから覚えてる。
「ま、まあたしかに強いスキルだけどさ、ほら私なんかは鍛治スキルカンストしてるわけだし、3年間も作り続けてきたわけだからこれくらい……」
「いーやどう考えてもおかしいですよ!?」
「どーしたどーした、そんな叫んで。そんなにあの蜘蛛怖かったのか?」
「違います!!」
長く話していたからか、エルリアが来た。
「エル姉さん、この人平然とスキル3つ持ってる剣使ってますよ!?」
……え? おかしいの!? …………考えてみると、たしかに……?
そういえば私の剣がよく売れるようになったのってスキル3つあるからなのかな?
私の作った剣はどれも初めからスキル3つ付いてたし、特別だなんて思わなかった。
「そうか? 普通じゃん」
「な、何言って……はっそうか……。この人ずっとヒナタさんの武器使ってるから……。」
「え、やっぱりスキル3つっておかしいの?」
まあホノカの反応を見るにおかしいようだが。
「おかしいですよ……。普通人間の作る武器にはスキルなんか付きません。付いてもせいぜい1つです。」
「な、なんと」
「稀にドワーフ族の作る武器が2つ以上のスキルが付くと言われてますけど……」
「ヒナタおめぇまさか……」
「え? は??」
「「じー」」とこちらを見る2人。
「ち、違うよ! 私はれっきとした人間!! なんでスキル3つ付けれるのか分からないけど、転生者だからだって」
必死に自分を弁護する。
しっかしドワーフ族なんて種族もあるんだ。
初耳です。
エルリアとホノカはしばらく「「じー」」と見てきたが、フィリナが周りの敵を片付け終えて2人の服を引っ張ったことで、膠着が解かれた。
「ま、戦力が多いに越したことはないし、ドワーフにせよ何にせよヒナタはヒナタだな」
「そうですね、転生者っていうのにも納得がいきます。それに仮にドワーフでも私たちはどうも思いませんよ」
「なんか結局私の疑い晴れてなくない!? それにドワーフ族だったら何かマズイことでもあるの!?」
「……あめ」
結局このあともいくらか論争が続いたが、埒が明かないのでこの話題は置いておく。
なんだかんだで私の疑いが晴れ……たのかは分からないが、なんにしろダンジョンの奥に行くことに。
しっかし入ってからかなり進んできたが、今のところ入口付近であったモンスターと、この辺りであったモンスターとでは強さは変わらないし、深ければ深い所ほどモンスターも強くなる、というダンジョンの常識から外れている。
それにやっぱり今のところボス部屋なんてものは見当たらないし、無機質な洞窟が続くだけ。
それにボス部屋に続いている可能性が高い落とし穴トラップも、今のところ引っかかっていない。
「にしてもほんとに沢山落とすなーここ。もう20本目だぞ」
頭の後ろに手を回しながらエルリアが言う。
「ほんと、こりゃ私の仕事も減るのもわかるよー」
「それに武器のスペックも凄いです。たまに外れがありますけど、このピッケルと剣なんかは2つもスキル付いてますよ」
「私より1個少ないけどねー」
謎の対抗心。
しかしスキル2つも付いてる武器なんかは、その効果に関わらず業物と呼ばれるらしい。
一本10万リンカもするそうだ。
……スキル3つあるのに5万リンカ以下で売ってた私がバカみたいじゃないか。
そのおかげでバカ売れしたんだろうけど。
しかしそれもこれもこのダンジョンのせいで売れなくなった。
いくら剣の性能が高くても、それを何本も何本も無料でドロップしてたら、強い剣を持って危険なダンジョン行かなくても、売っちゃえば儲かる。
はあ……。
でもとりあえずここのボス部屋に行けばなんとかなる。
エルリア達のパーティーは強いし、エルリアは私が最初に作った激重な剣を持ってる。
だからなんとか倒せるだろう。
しかしそろそろトラップの1つや2つ見つかってもいい頃合じゃないか?
私は気を取り直して聞いてみる。
「ねえねえ、だいぶ奥まで来たけど、トラップってどんな感じであるの?」
「そうだなー、たとえばいかにも崩れそうな所とかだな。まあいきなり地面が消えるとかはないな」
「なるほど──」
「──ね」と言葉が続く前に、私の足元が突然、消えた。
「……ふぁっ!?!?」
「……っ」
私が落ちていくのと同時に、フィリナが凄い速さで私の手を掴んだ。
しかし──
「──……おも、い……」
何故か分からないけど、私とフィリナは重力に従って、穴の中に落ちていった。
──────────
だんだんと意識が戻ってくる。
落ちる最中は幸いにも横の壁に当たることは無かった。
しかし、おかげで勢そのまま硬い地面に落下、意識を失ってしまった。
幸い、今のところ出血しているような感覚は無いし、五体の感覚はある。
「いててて……」
しかしやっぱり身体を強打しているようで、大きな怪我は無いが、痛みがある。
すると、「……ヒール」と言う声が聞こえ、同時に身体の痛みが和らいだ。
「……だいじょうぶ……?」
見るとフィリナが回復魔法を使ってくれていたらしい。
「ありがとうフィリナ。おかげで痛くなくなったよ」
「……あめ」
「…………あめ、ですか……」
そんなもの持ってないよ……。
てかこの状況で飴を欲しがるのはさすがにやばい。
たしかに助けてくれてはいるけど、まずこの落とし穴から出ることが先決だ。
しかしその事を分かっているのか分かっていないのか、フィリナは「……あめ、あめ、」とせびってくる。
「ご、ごめんね? 今私、飴持ってないんだよ」
「…………」
なんだろう、ムスッとするのやめてもらって。
これからフィリナがいる時は飴を持ち歩いた方がいいのかな……。
そんなふうに思いながら、私は落とし穴の入口、つまり上を向いた。
そして、ここがただの穴では無いことに気がついた。
「え……?」
半円状に広がった天井、その壁には無数の鉱石や結晶が張り付き、薄い闇の中でもキラキラと光っている。
……いや、完全なる闇では無い。
ドームのような空間の壁際に設置された無数の燭台には、青い炎が灯っている。
「ここ……もしかして」
呟くと同時に、「──ドスン……ドスン……」と何か巨大なものが近づいてくる音がする。
「──わざわざそちらから来てくれるとは思わなかったのだ。」
「……マジじゃん……」
燭台の蒼炎が一層明るく燃え始め、鉱石たちの反射によって明るくドーム内が照らされる。
そこに現れたのは見上げるほどに大きなシルエット、太く短い足に、長い胴体と尻尾、そして巨大な翼と、何でも噛み砕きそうな顎に、立派に生えた角。
ドラゴンが……全体的に青色のドラゴンがそこにいた。
「も、もしかしてこれが……」
「──ふむ、先に名乗っておくのだ。我はグラノア、蒼炎のドラゴンの名を冠する者、グランド・ノーチラス・アトランティスなのだ。」
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