第3話 朧月夜の君とのお話2

 三月やよい二十日はつかすぎ、夫は右大臣邸に弓の試合と、藤の花の宴に行っている。我が家は私の方針で右大臣家とも良好な関係を持つことにしたので、夫は出席だ。中宮の甥なので派閥は違うが、仲良くしてきてねと送り出した。


 今日は兄と朧月夜の君とが再会する日である。

 夫には私が兄に会いたがっていると伝えてくれるように頼んでおいた。そのうち来るだろう。


 夜遅く夫が帰ってきた。

「今帰ったよ。」

「おかえりなさいませ。いかがでした?」

「豪華な宴だったよ。遅咲きの二本の桜が見事だった。」

「右大臣家は、いつでも最先端ですものね。」

「ああ。源氏の君は見当たらないなと思っていたんだが、夜も更けたころにいらしたよ。」

「あら、そうですのね。」

「目立っていたよ。みんな正装なのに、桜襲さくらがさねの唐織の直衣のうし葡萄染えびぞめ下襲したがさねの裾を長く引いてたいそうしゃれていたよ。」


 春の装いだね。おしゃれさん。夫は続ける。


「でも、酔って気分が悪くなったみたいで途中で退出されたよ。」

「あら、大丈夫かしら。」

「ね。そのあとは私も帰ってきたのでわからないんだ。」

「いえ、ありがとうございます。」


 ふむ。きっと朧月夜おぼろづきよの君を探しに行ったんだな。続きは兄が来てからだ。私たちは就寝することにした。




 数日して、兄が訪ねてきた。機嫌がいい。また御簾みすの中に招き入れてお話をする。



「藤の宴はいかがでした?夫がおにいさまがたいそう美しく登場されたと話していましたわ。」

「そうかい?久しぶりに女一の宮さまと女三の宮さまにお会いしたよ。」

「ふふ。それだけですか?かの朧月夜の方とはお会いできましたの?」

「ああ。見つけることができたよ。」

「どうやってお見つけになったんですの?」

 ふふふと兄が笑う。

「酔っぱらって気持ちが悪い振りをして宴を抜け出してね、寝殿の方に向かったんだ。」

「まあ。お悪いこと。」

「そして、東の戸口の方から入って、気分が悪いのに盃を勧められて大変だから匿ってくれと言って御簾の中に上半身だけいれてみたんだ。」

「おにいさま・・・御簾の内側は・・・」

「ふふ。軽く注意はされたよ。」

「そうでしょうね。」

「確かに女宮がいる場所だったので軽々しいふるまいだったとは思うが、こないだの彼女がいるかもしれないと思ってね。」

「まあ、そうですわね。右大臣の姫君が勢ぞろいでしたの?」

「ああ。でもどの方かわからなくてね。「扇を取られて、からきめを見る」と言ってみたんだ。」

 扇を取られて、つらいめにあう。と、本来は帯だ。

「そうしたら?」

「変わった高麗人こまうどですねという声と、ため息が聞こえたんだ。ため息をする方を彼女だと思って、歌を詠みかけたんだ。そのお返事の声を聞くと、思った通り彼女だったよ。」

 と、とても嬉しいという風に話す。


 これって、もし人違いだったらどうするんだろうか?


「探し当てることができてようございましたわね。」

「ああ。」


 これから右大臣家にも通うのかな。敵陣と一緒なのに根性あるよね。


「またいらしてくださいませね。」

「ああ、またすぐ来るよ。」


 そうして、兄は帰って行った。





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