第1話 桐壺帝譲位

 昨年、私が二十歳、兄が二十一歳の年に、父、桐壺帝が譲位した。桐壺院となる。藤壺中宮との皇子を東宮にし、兄に後見役を申し付けての退位だ。引退後は藤壺中宮と常に一緒に生活しており、二人とも心穏やかに生活しているようである。

 心穏やかでいられないのは兄だけだろう。藤壺中宮と余計に会えなくなったのだから。その落ち込みからか、方々の女人の元にはあまり通っていないそうだ。


 一方弘徽殿女御こきでんのにょうご皇太后こうたいごうとなり、父と一緒におらず息子の朱雀帝のそばである後宮にいるそうだ。自分以外の女性を寵愛しているところになんていたくないよね。よくわかる。

 帝の代替わりもあってか、斎宮さいぐう斎院さいいんの交代があった。


 斎宮は、かの六条御息所ろくじょうのみやすんどころの娘の姫宮である。父は、亡くなった前坊ぜんぼう―先の皇太子―私たちの父桐壺帝の弟だ。

 その姫宮が斎宮に選ばれ、六条御息所は一緒に伊勢に下ろうかと考えているそうだ。それもそうだ。兄の恋人たちのなかでも身分が高く教養もあり、もし、父の弟の東宮が生きて天皇になっていたら、中宮になっていたはずの人である。そんな人を蔑ろにしている兄が悪いのである。


 兄が六条御息所を恋人にしておきながら、蔑ろにしているという噂が父にも届いたのだろう。父は兄を少し叱ったそうだ。

 夫がその場にいたので教えてくれた。


「それで、父はどうおっしゃいましたの?」

「桐壺院はたいそう不快そうにこうおっしゃったよ。「亡き東宮がたいそう大事な人だと思って、寵愛していた人を軽々しく他の人と同じように扱うなんて気の毒だ。姫宮の斎宮も私の娘のように思っているのだから、どちらにしても粗略にしないほうがいいぞ。このように好色なことをするのは、世の中の非難をあびることになる。」と。」


 よく言った!!さすが父君!

 もっと最初から注意してほしいけど。


「まあ。さすがお父様ですわ」

「それから、「どの女人の面目をつぶすようなことをせず、角の立たないようにして誰からも恨まれないようにしなさい」とおっしゃっていたよ。」


 自分ができなかったことを教訓にしてくださいとでも言ってるのかな。恨まれて大変だったもんね。


「ご経験からかしら?重みがありますわね。」

「こらこら」

 と夫は笑った。


「正式に妻の一人にお迎えになればよろしいのに。」

「そうだね。御息所が遠慮しているらしいよ。」

「それは、兄の情報操作ではなくて?そんな妾のような立場おられるなんてお似合いでないしお気の毒だわ。」


 父にまで知られてしまっては気位が高い御息所でなくても嫌だろうな。

 彼女との関係は兄が17ぐらいからのはずだが、本人もうまくごまかして語らない。

 でも、それまでの恋愛遍歴を考えれば、さすがに扱いが悪いと私も思う。


 これから起こることを思うと気が重い。


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