第2話 末摘花の君とのお話2

「珍しくすぐに帰られましたのね。」

「実は、他に約束があったんだよ。」


 女性との逢瀬の前に、恋人探しですか。されたら嫌だな。


「まっすぐそちらに行って差し上げればよろしいのに。」

「まあ、そう言ってくれるな。でも、そのあと、頭中将に会ってね。行かなかったんだよ。」

「頭中将さま?何をしてらしたの?」

「私のあとをつけてきていたんだ。」

「変なことをされますのね。」

「左大臣家へも二条院へも行かないから変に思ったそうだよ。」

「おかしな方。」


 頭中将、素敵な貴公子なのになぜかいつもちょっと面白い人だ。


「それで二人で左大臣家へ行ったんだ。笛を二人で合奏しながら行ってね。そうすると左大臣や、女房たちも参加してくれて音楽を楽しんだよ。」

「素敵ですわね。」

「ああ。でも、頭中将とうのちゅうじょうに見られたのがまずくてね、彼も姫君に文を送るようになったんだ。」

「ふふ、頭中将さまは、すぐおにいさまとお競いになるから。」


 そして負ける。かわいそうに。


「でもどちらも全然お返事がなくてね。そうこうしている間に瘧病になったり、色々あったりでしばらく何もしなかったんだ。」


 うんうん。藤壺ふじつぼの宮のところに忍んで行って、落ち込んだりいそがしかったもんね。


「そのままお忘れになりましたの?」

「いや、秋になったころ、またお文をさしあげたんだが、相変わらずお返事はもらえなくてね。」


 末摘花すえつむはなの君は和歌苦手なんだよね。かわいそうに。


「たいへん内気でいらっしゃるのね。」

「でも、だんだん納得いかなくなってきてね。命婦に会わせるように強引に迫ったんだ。」


 もう、わがままなんだから。強引に行けば何とかなる!って肉食系だよね。


「それで、姫君は受け入れてくださいましたの?」

「それが、どんなに話しかけてもお返事がなくて、和歌を詠んで、やっと返歌があったと思ったら何か変なんだ。変に思いながら、もう一度詠みかけても返事がない。」

「返歌を返したのは姫君でしたの?」

「たぶんお側にいた女房なのかもしれない。」


 そうだよ。


「それは、なんとまあ。違和感があっても仕方ありませんわね。」

「それで、何ともならないからじれったくなって強引に押し入ったんだ。」


 なぜ、押し入る?


「女房たちはお止めにならなかったのですか?」

「いや、何もしなかったよ。」


 まあ、養ってくれるかもって思うよね。落ちぶれた姫には、運よく養ってくれる貴公子に巡り合うか、受領ずりょう階級の妻となるか(空蝉)の道しかない。


「・・・はあ。そうでございますか。」

「でも、どうもこうも反応がよくわからなくてね、夜が深いうちに帰ったよ。」


 ひどい。


「おにいさま、それはさすがに。」

「いたたまれなくてね。」


 まあ、何の反応もなかったらそうか。

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