第5話 藤壺の宮との話(『若紫』藤壺の宮との過ち)
話を始める前に女房を呼びお茶を用意させる。今回は話が話なだけに完全に人払いをするように命じる。
絶対に聞こえる距離にいてはならないと。
なぜなら、もし外部に漏れてしまったら兄は謀反に問われるかもしれないからだ。
「おにいさま・・・」
「ああ。本当にすまないと思っているよ。」
別にいいのだ。話が聞きたいだけなのだから。
「構いませんのよ。わたくしはおにいさまのお心が知りたいだけなのです。」
「姫宮・・・。なんて優しい子なんだ。」
違う。話が聞きたいだけだ。
「あれは、四月のころだった。藤壺さまがお里下がりをされたと聞いた。父君が嘆いているのを見ていたが、そんなことよりも、もしかして会えるかもしれない。いや何とかして会いたいと思うようになり、昼間は放心して暮らし、夜は
「王命婦も困ったでしょうね。」
「ああ、何度も断られたよ。でも、ついに根負けしてくれてね。お会いすることが叶ったんだ。」
続きを促す。
「現実と思えない、夢のような夜だった。気持ちのすべてをお伝えなどできなかった。短い夜だった。少しでも、嫌いになれるところがあればいいのにとも思った。あの人には欠点一つないのだから。」
「そこまでお好きだったのですね。」
「そのような言葉で言い表せないよ。なぜあの方は父君の女御なのだろうか。」
兄の目には涙が浮かんでいる。
「それから、家に帰って泣いて過ごしたよ。文を送っても送っても、ご覧になっていないという知らせばかりなんだ。」
うんうんと相槌をうつ。
「そして、藤壺さまが懐妊したという話を聞いた頃夢を見たんだ。その夢を解くものを呼び寄せ、聞いたところ、意に反することがあって謹慎しなくてはいけなくなる。ということだった。」
「わたくしの甥御で間違いございませんわね?」
「ああ。そう思う。」
「そして、おにいさまは、何かの罰を受けると?」
「ああ。姫宮には迷惑をかけてしまうことになる。」
だよね。大丈夫乗り越えて見せるから。
「わかりましたわ。どうにか致しますわ。ご安心ください。その代わり、もし、おにいさまの意に添わぬことをいたしましてもお許しくださいませ。」
「ああ。君を守れるときは、常に後見でいよう。配流になろうとも、返り咲いてみせよう。そしてまた君の頼りになる後見でいよう。わたしの不在の間はどうにか乗り越えてくれ。」
「お任せくださいませ。」
これからも源氏物語を楽しむため、わたしはこの地位を手放すわけにいかないのだ。
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