第4話 藤壺の宮の懐妊

 藤壺の宮がご病気なのでお里下がりをされたというお噂が4月にあってから今は6月、今度はご懐妊になったという知らせがあった。

 最近は、兄に文を送っても送っても会いに来ない。

 怪しい・・・

 と思うところだが、私は知っている。ただ、私は兄の口から聞きたいのである。

 もう一度文を送ってみるか。

 そう思い、私は兄心をくすぐる文をしたためるのである。


 やっと、兄が来た。すぐに御簾みすの中に招き入れる。

「おにいさま、お久しぶりでございます。」

「ああ、姫宮、会いたかったよ。」

「その割にはお越しになられませんでしたわね。宮はさみしゅうございました。」

 恨み事を言っておこう。

「ごめんね。いろいろふさぎ込むことが多くてね。」

「そうですの?何かございましたの?」

 話すこと、あるでしょ?あるでしょ?兄は目をそらす。

「おにいさま・・・わたくしたち帝もお認めになるほどの仲の良い兄妹ですわ。」

「うん、そうだね。」

「わたくしの後見はおにいさまですわ。」

「うん。そうだよ。父君もだがね。」

「ええ。おにいさまに何かあった場合一番影響を受けるのは誰であって?」

「き、君だね。」

 北の方の葵の上には、立派な実家があるし他の女人も今は問題ない。

「ですわよね。おにいさまが栄えれば、私も栄え、おにいさまが落ちぶれれば、わたくしも落ちぶれるのですわ。」

「いや、君には立派な背の君がいるじゃないか。」

「あの方の愛は疑いようもありませんが、私の正妻の座は危なくなるかもしれません!」

「いやいや、あの忠実人が、そんなことをするわけないよ。」

「・・・まあ、そうでございますわね。でもそれぐらい影響があることはご存じでしょうか?」

「う、うん。わかっているよ。」

 じっと見つめる。

「わたくしに隠し事なんていたしませんわよね。だってわたくしたちは一蓮托生、運命共同体なのですもの。」

「あ、ああ。決してしない。」

 おにいさま、暑うございますか?

「いいでしょう。信じて差し上げますわ。」

 兄がほっと息をつく。安心するのはまだ早い。

「ところで、わたくしたちに新しい弟か妹ができるそうですわね。」

 といって兄をみる。顔色が悪い。

「藤壺さまは、お里下がりをされているのでご挨拶に参ろうと思ったころからご病気ということで、その後ご懐妊とお聞きし、まだお会いできていなくて残念ですの。」

 また、兄を見る。目が合わない。

「そういえば、おにいさまとふさぎ込んでいる時期は同じですわね。」

「そ、そうだね。」

「ね、おにいさま。先ほど、この宮には隠し事などなさらないとお約束いたしましたわよね。」

「あ、ああ。」

 兄は観念したようだ。私は扇を広げてにっこりとした。

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